SatoshiFujiwara

ノン、あるいは支配の空しい栄光のSatoshiFujiwaraのレビュー・感想・評価

3.6
人を食っているようでその意図やいかに、というところだ。一般に歴史というものは主観的なものだ。主体がいて「歴史」が立ち現れる。むろん裏の歴史、正史ではない歴史というものもポリティカル・コレクトネスの視点から掘り起こす立場はあるが、それとて主観からは逃れられない。

本作でルイス・ミゲル・シントラによって語られる、ポルトガルにおける3つの敗北。ここでオリヴェイラは、普通の意味で客観的な歴史の記述を目指す、なんぞ全く考えていないし、できるとも思っていない。現在時制で語られる過去の歴史の中に戦闘シーンがインサートされるが、そのシーンの陳腐さはいかにもいびつであり、バランスを著しく欠いている。これは歴史批判的な批評精神というより、単にオリヴェイラの生来の変態性(笑)とバロック的な歪みの産物だろう。もしくは、歴史は意識だから、普通の意味でのリアリティなんぞどーでもよい、と。あからさまなカメラ目線も映画への没入ではなく「シラケ」を促す。異化と言ってもよい。

これは確かに面白いんだが、ある意味失笑に近いもので、正直どう捉えたものか戸惑う。要は「分からない」。まあ、この戸惑い自体が快感ゆえになんだかよく分からんことが多いオリヴェイラ作品を度々観ているのだろう。

文句なしにすばらしいのはやはり冒頭の大木を捉えた長回し(また音楽も良いのだ)。いかにも神々しいこの老木はポルトガル2000年の歴史を静かに眺めてきたのか。このシーンは兵士を乗せたジープだかトラックからのトラッキングだろうが、しかし木を見ているのは誰なのか。兵士ではなかろう。それゆえ人間ならざる超越的なものを感じ、かつそれに対する畏怖の念を抱かせるのだ。ここだけでも観る価値がある。
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