Jeffrey

ノン、あるいは支配の空しい栄光のJeffreyのレビュー・感想・評価

3.0
‪「ノン、あるいは支配の空しい栄光」‬

冒頭、1974年アフリカのポルトガル植民地。

空と木の描写。独立戦争、疲弊する兵士たち、戦闘、自国の歴史、研究者、ローマ時代、十字軍の時代、大航海時代、先祖。今、剣を握った伝説の王ドン・セバスチャンが現れる…

本作はマノエル・デ・オリベイラ監督が89年に撮った歴史ドラマで、この度初鑑賞したが中々の複雑さがあるものの素晴らしい作品なんではないか。

複数の物語をカットバックで繋いだり、中世の騎士たちの姿とオーバーラップさせたり、進行する時間のメタファーらしきものを導入したり、とりわけ過去と現在のフラッシュバックで混合して行く難解な作風である。

この映画を見るにあたってポルトガルの敗北の歴史とりわけ4つの敗北の物語までしっかり頭に入れておかないと何が何だか分からなくなる。

それに他にも情報入れるとしたらカーネーション革命も必要かと。

さて、物語はアフリカの森をトラックで移動している中、1974年春の出来事。泥沼化する植民地戦争に兵士たちが自分たちに戦争の意味を問いかけ始める。俺たちは一体何のために戦っているのか…とこの調子に。

その中の中隊長がポルトガルの過去の壮絶な戦いをみんなに聞かせ始める。それは紀元前2世紀頃の話からスタートする…と簡単に説明するとこんな感じでもっと多くの情報を取り入れないとわからないと思うがそれをここで書いてしまうとかなりの長文になってしまう為、ここでは割愛する。

この映画冒頭からすごい引き込まれる。

不気味な音楽がかすかに聞こえる中、沈黙の兵士たちがトラックに乗りただひたすら険しい道を走る。それに兵士の1人がチベットを占領している漢民族に対しての批判があり、あの森の中でのキューピットの可愛らしい少年の描写や裸の女性の画作りは幻想的だ。

まるで戦争歴史に対して神話的な視線を導入しているかのように感じる。

それとロングショットが目立ち迫力のある戦いやポルトガルの全体像が把握できる。

あのシーンだけで相当制作費かかってるだろうなぁ…。それにしても植民地戦争に反対し立ち上がった将校達やサラザール独裁体制が崩壊するまでのポルトガルの悲惨な状況が何とも言えず、カメラに目線を送る包帯グルグル巻きになった兵士はとても印象残す。

またいつか銃口にカーネーションが刺さる様な出来事が起こらないことを祈りたいものだ。

少しでも歴史に興味がある方にはオススメができる。本作を通して歴史を語ることの意味を問い直せる1本だ。

余談だがこの監督は70歳を超えてからとんでもなく急速に作品を撮り続け、年に1つの作品を撮るペースに加速していく。

最高齢の監督とも言われていたし、彼の90年代以降の作品をもっと見てみたいものだ。‬


‪早よBD化…‬
Jeffrey

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