すごく難しい映画だというのが第一印象だったけれど、ひたすらにトムとニコールが美しく、倒錯した性の独特の空気感に終始している。
本作は、キューブリックが当時30代のハリウッドきっての大物カップルだったトム夫妻に目を付けて、出演を依頼。
トムは喜び勇んで、キューブリックの住まうイギリスへ、ニコールと2人の子供たちと移住してしまう。
そこから3年間毎日毎日、キューブリック監督のもと、同じシーンを異なるカットから90テイクも撮影する日々を余儀なくされる。3年間という撮影期間は、映画史上最長だとのこと。
そんな撮影の日々の中、トムは精神的に追い詰められていった様子を語っている。さらにキューブリックは、ニコールと若く魅力的な俳優のベッドシーンを撮影するために6日間完全に、トムをニコールから隔絶させて生活させるという拷問を強いたという。
驚くべきキューブリック監督の執念の中で生まれた本作には、もはや演技ではなく、夫婦の本物の苦しみ、嫉妬、煩悩が撮り収められている。
本物の大物俳優夫婦を対象に、映画という舞台で遂行された、キューブリックの大実験だったと言えるのではないか。
トム・クルーズがキューブリックの作品を演じていたのか、それともキューブリックがトム・クルーズを弄んでいたのか？と評される理由がよく分かる。
本作が公開となってまもなく、キューブリック監督が亡くなり、遺作となったわけだが、その葬儀に参列し、棺と対面した時の喪失感とショックについて、トムは静かに語ってる。それはそうだろうな、家族もろとも、3年間毎日、という時間を捧げた作品だったのだから。
トムはこのあと、ニコールと離婚するも、本作を肥しとしてまた俳優として格を上げ続けていったということは、最後にこの実験に勝ったのはトムだったということなのだろうか。
