Wisteria

天井桟敷の人々のWisteriaのレビュー・感想・評価

天井桟敷の人々(1945年製作の映画)
4.5
本作に対する高評価には2つの側面がある。内容の素晴らしさは勿論だが、これ程の作品が、ナチ占領下のフランス国内で3年超もの歳月と多額の資金を投入して作られたことに驚きと感銘を覚えるのだ。
当時はナチス当局の厳しい監視下にあったわけだから、フランスの国民意識を発揚させるようなモチーフを採用することはまず不可能だったわけで、実際、本作は魅惑的な女芸人ガランスを核に男女の色恋話に終始しているようにも見える。
しかし、本作を観ると、そこにフランスが誇る文化の息吹を強く感じ取ることになる。
19世紀以降、フランスでは芸術文化の大衆化の流れが起こり、それから第二次世界大戦前までの間、フランス・パリはまさしく文化の中心地であり続けたわけだが、本作は、19世紀前半の近代文化が解き放たれつつある勢い溢れるパリの目抜き通りを舞台にしている。
大衆演劇に熱狂する天井桟敷の人々は、フランス近代文化の象徴的存在だとすれば、その熱気を表すことで、全体主義的価値観を粉砕しようとしているかのようだ。
そう言えば、主人公の名前ガランスは、フランス地域の古い呼称ガリアを彷彿させる。ガリアとフランスを融合させるとガランスに…穿ちすぎだろうか?
また、もう一方の主役バチストの無言劇は、語るべき言葉を奪われてもなお、表現することを諦めないフランスの人々の心意気を伝えているかのようだ。
本作は公開から70年以上経ったにもかかわらず、今だに高い評価を獲得している。今日でも世界中の人々に愛されているという紛れも無い事実は、大衆に開かれた文化の高らかな勝利を宣言しているかのようだ。
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