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眠狂四郎 勝負のひこくろのレビュー・感想・評価

眠狂四郎 勝負(1964年製作の映画)
4.1
市川雷蔵が映画スターとして大人気を博した理由が、この一本からでも十二分に伝わってくる。
所作や殺陣、立ち姿の美しさはもちろん、彼の表情がとてもいいのだ。
どこか冷めたようなクールな二枚目の面もあれば、まだ幼さの残る青年のような笑顔も見せる。
かと思えば、凄味を利かせる場面では、研ぎ澄まされたような魅力を放つ。
これは男でも惚れるわ、と思った。

また、キャラクターとでも言いたくなるような登場人物たちの造形がこれまたいい。
高慢で権力を笠に着て、好色とわがままの限りを尽くす高姫。
根っからの悪人で、終始、悪事を企み続ける白鳥主膳。
狂四郎の命を狙ってくる刺客たち。アイドル的なそば屋の娘、つや。
謎に満ちた女白拍子の妥女。
誰も彼もがマンガ的なのだが、それが時代劇にぴったりと合っている。
なかでも、頑固で誠実な勘定奉行、朝比奈老人の存在感は秀逸。
加藤嘉が演じるこの老人こそが、この映画の魅力の半分を担っていると言ってもいい。

物語、映像も、洗練された時代劇の良さがある。
こういう脈々と受け継がれてきた時代劇の文化が、現代で壊滅的になってしまっているのは、本当に惜しい。
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