塩湖

おかえりの塩湖のレビュー・感想・評価

おかえり(1996年製作の映画)
4.5
遅く帰ってきた寺島進が「どうしたんだよこれ」と笑いながら食卓にならんだ料理を見つめる。でもローアングルだから、料理はミニトマトが見きれてるくらいであとは殆ど隠れてる。仕切り直しと言わんばかりに夫婦で食べはじめてからもその構図はつづく。さいごまで料理の全貌を観客は知ることができない。それが画の切り取り方として違和感ありまくりなのに「そういうもんなんだよ」とでもいうようにさらりと提示されるのが、怖い。しかし映画後半の異常な静けさはいったいなんなんだ。狂気というにはあまりに鈍重でたどたどしい、いきすぎた寂しさみたいななにかを感じた。最後の場面は神々しいほどに美しいからこそ浮いていて、全編の中でいちばん不安な感じを強く帯びてる気がする。ゆえに忘れ難い。夫婦の倦怠モノというより、監督のいう「俳優のドキュメンタリー」として鑑賞するほうがピンとくるのかも。演じてる寺島進の何時も悪気のない感じは見ていて心地よかったけどたまにふと辛くなってしまう瞬間もなくはなかった。というか箱の中身を知っておもむろに笑う場面が即興なのには衝撃を受ける。このときの表情はこうだろう、というナチュラルな判断で映画の辿る方向を決定づける。俳優の支配力すごい。
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