Jeffrey

懺悔のJeffreyのレビュー・感想・評価

懺悔(1984年製作の映画)
4.0
本作はソビエト連邦崩壊前夜の伝説的映画として日本では紹介され、この度DVD化されたの購入して鑑賞したが傑作。いわゆるテンギズ・アブラゼの祈り三部作の一作にあたる本作は、グルジア映画を代表する作品になっており、「祈り」「希望の樹」に続く、懺悔三部作最終作とも言われる。1937年のスターリン書記長による大粛清を想起させる内容は、その時代を真っ正面から批判した映画として、モスクワで一般公開された際は、最初の10日間だけで70万人以上動員、ソビエト全土の公開でも大成功を収め、パカヤーニエロ(懺悔現象)呼ばれるに至る。その社会反響は1991年のソビエト連邦解体にもつながるペレストロイカ(改革)グラスノスチ(情報公開)の象徴となった。

物語はある街で、偉人として誰からも尊敬されていた市長が死んで、人々がその姿を悼む中、まるで故人を冒涜するかのごとく毎夜その墓があばかれる。誰が、何のために。ついに逮捕された犯人が法廷で語り出したのは、狂気の独裁者に翻弄された1つの家族の物語である…映画は1984年のもので、144分とかなりの長時間の映画である見ごたえは充分である。なぜだかこの作品だけDVD化されているがその他にも発売してほしい。とりわけこの作品は87年カンヌ国際映画祭審査員特別大賞受賞し、その他にもシカゴやキリストなどそういった映画祭でも受賞したブラックファンタジーの大傑作である。ソビエト連邦の検閲をかいくぐり制作されている。当時は今は廃館になってしまった岩波ホールで上映されていたことを思い出す。

当時の作品を見るとグルジアのイメージの中に…と言うよりかは作品の表現に民族と文化的固有性に深く根ざし、それ故普遍的な輝きを放ち続けるようなものがあって近代の日本はもちろんのこと、グルジアの映画にもそのような傾向があまり見受けられなくなったのは残念である(日本はグルジア以上にその傾向が強く出ていると思う)。この映画スターリンの大粛清を批判しているのだが、映画の冒頭から早速人類の歴史の中で実際に起こった独裁者の残忍な行為についてケーキを作る女性がモノローグとして語り始める場面から検閲で壱発アウトな気もするがこの映画が普通に上映されたのが奇跡的だなと感じた。

この監督は太古から変わらぬ人間の迷妄や欲望がもたらす社会的暴力を、詩的、寓話的に描き、人間性を妨げるものを鋭く告発することにたけている人だなと感じる。それに人間への限りない愛情と信頼、寛容、愛、自由に対する祈りが込められているまさに祈りトリロジーの傑作と言えるだろう。とりわけこの作品を見て古臭く感じないのは、世紀を超えて、年号を超えても今も変わらぬ社会実情が何一つ当時と変わっていないことをあらわにしていると言うことなのだから、極めて遺憾であると感じる。

この監督は1953年に2本の作品を撮ってその後に8本の映画トータル10本の作品をとっているが、カンヌ国際映画祭短編グランプリを受賞した「青い目のロバ」と言うのは実際日本公開されているそうだが、メディア化されていないためまだ見れていないが非常にみたい。それにこの三部作の途中で撮影されている「私の恋人のための首飾り」(1971年)も気になるところだ。ザザ・ハルヴァジ氏によると、最初のアイディアでは、復讐をする人は男性だったそうで、映画を作っていく過程で男が墓を掘るのは当たり前だが女性が必死になって墓を掘る方がより印象的だからと言うことで途中で女性に変わったらしい。

そしてKGBが監督に呼び出しを申し出し、お前はどんな映画を作ったんだ、ソ連中がお前の映画の話をしている。映画はソ連政府を批判しているそうじゃないかと言う、監督は自分の2時間ほどの作品がソ連政府を崩壊させるとしたら、ソ連政府と言うのはそもそも崩壊すべきものだったのだと答えたそうだ。実際にビデオによって水面下でたくさんの人が見て口コミが広がっていって、この作品は評価されていったらしい。
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