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ジャズ大名のROYのレビュー・感想・評価

ジャズ大名(1986年製作の映画)
3.8
チョンマゲ頭を叩いてみればニューオーリンズの音がする。

時は幕末、駿河の国。アメリカより漂着した黒人達と城をあげてのオールナイト・ジャムセッション!

イエーイ

Sound Revue

■STORY
駿河の国・庵原藩、藩主海郷亮勝は大の音楽好きで家老の目を盗んでは今日もふところからヒチリキを出して吹いていた。駿河湾に、サム、ルイ、ジョーのボートが打ち上げられた。亮勝は城の地下座敷牢に3人の黒人を入れ、流れつくまでの話を聞いた。そして、サムが桶をひっくり返し火鉢の火箸で叩き始め、ルイがコルネット、ジョーがトロンボーンとジャズ演奏を始める。格子戸を外した座敷牢は、一転、ステージに変わった。(BS日テレ)

■NOTE I(VHS裏面より)
維新の嵐が吹き荒れる江戸時代末期、駿河の国の小藩に流れ着いたる黒き異人3人。 ところが、ここの大名は大の音楽ずき、3人が奏でる4ビートのリズムに思わず体を動かし心をときめかせる·····。日々がすぎゆき、城中のあちらこちらからジャズの音が聞こえてくる。樽、鍋、三味線、琴etc、鳴り始めたら止まらない城を上げての一大ジャムセッション、地をゆるがさんばかりのジャズの音は、維新の産声も知らずに熱的合奏一大絵巻を繰り広げる......。鬼才岡本喜八監督が81年 『近頃なぜかチャールストン』以来、久しぶりにメガホンを握り、5年間にたまりにたまったエネルギーを一気に爆発させ、若々しい作品に仕上げると張り切っている。

筒井康隆の原作が持つ真面目なパロディのおもしろさに、山下洋輔が乗りに乗って作る音楽。 まだ見ぬうちから心が踊り、聞かぬうちから思わずスウィングしたくなるような楽しいコメディーの誕生が期待される。

キャストは、陽気な大名に古谷一行、家老役は財津一郎、文子姫に神崎愛とユニークな配役。特別出演は、筒井康隆はじめ、山下洋輔、唐十郎、細野晴臣らが、にぎやかに予定されている。さらに黒人役は、インデアナ州立大学の音楽コースの現役学生とプロのミュージシャンがオーディションで選ばれて来日し、大ジャムセッションを盛り上げる。

■NOTE II
◯また、(マイク・)モラスキーは映画音楽が二つのタイプに分類できるとしている。一つは〈同時音〉、音の源泉(例えば、演奏しているミュージシャンやラジオなど)が画面のなかに写る場合、もしくは音源が画面と同次元にあることが分かる音の場合。もう一つは〈非同時音〉、映画の画面内の世界には属さない音、つまりバックグラウンドとしての「描写音楽」や「ムード音楽」だ。彼はこの分類が〈現実音〉対〈注釈音〉という区別にも、概ねあてはまるとしている。

ただ、どんなにジャズミュージシャンをストーリーの中心に据えた映画であっても、〈同時音〉、〈現実音〉だけで映画音楽が構成されているものはなく、どこかで〈非同時音〉、〈注釈音〉と共存している。逆に、フランスの一連のヌーヴェルヴァーグ映画のように、ジャズの演奏シーンはなくて、バックグラウンドとしての〈非同時音〉、〈注釈音〉だけで構成されている映画は数多い。

◯このアルバム(サントラ盤)のA面5曲は映画のサウンドトラック、B面5曲は筒井康隆プレイズ・サイドで、新潮社より発刊された『筒井康隆全集』購入者プレゼント用レコードの音源が収められており、筒井康隆のクラリネットが聴ける。録音はA面が86年、B面が85年。

A1 ジャズ大名〜シェラ・マドレ山中
物語の序盤。南北戦争が終わり、トロンボーン吹きの黒人奴隷ジョーは、バーモント近くの激戦地跡で弟サム、従兄ルイ、叔父ボブの3人と出会う。彼らはニューオリンズからアフリカへ帰る船賃を稼ぐため、ボブのクラリネット、ルイのコルネット、サムの太鼓、ジョーのトロンボーンでバンドを結成。この音源は、街道で出会ったメキシコ商人(4人を騙して、香港行きの船に乗せる悪徳商人。ミッキー・カーティスが演じている。)とともに、シェラ・マドレ山中を歩きながら演奏するシーンから。曲は筒井康隆作曲の「ジャズ大名」。

A2 ジャズ大名〜香港行きグスタフォ・カンパ号
香港行きの船内で、4人が演奏するシーン。曲は「ジャズ大名」で同じだが、A1よりも演奏が進歩していて、微笑ましい。 その後、船中でクラリネットのボブが病死する。そして、船が嵐に遭い、残った3人はボートで逃げ出し、幕末日本の駿河の国庵原藩に漂着。城の地下の座敷牢に収容される。

A3 ジャズ大名〜お稽古
庵原藩主の海郷亮勝は、地下の座敷牢から聞こえてくる異国の音楽に興味津々。しかし、性格が律儀な家老の九郎左ヱ門は、亮勝が異国の3人に会うことを許さない。「あの楽器に触れてみたい! 辛抱我慢たまらんのじゃ!」と、亮勝がせがんでいるところに、江戸屋敷の奥方が懐妊したという知らせ。しかし、トホホなことに、この子供が江戸屋敷詰め家臣との不義の子であることが判明し、九郎左ヱ門は監督不行き届きの責任を感じて、切腹を志願する。切腹を赦すことと引換えに、座敷牢の3人と会った亮勝は、まんまと持ち主のいなくなったクラリネットを譲り受け、練習を始めるという次第。

この「お稽古」は城主亮勝の吹く「ジャズ大名」のメロディに、城中がいろんな楽器で加わっていくシーンの音源。家臣は算盤、腰元は琴、台所の女中は三味線、それに加えて、鼓、横笛、琵琶、和太鼓、鍋、釜、洗濯板・・・。「お稽古」中ということで、クラリネットをはじめ、どの楽器も意図的にたどたどしく、ヘタウマなところはご愛嬌。なお、和楽器奏者は仙波清彦の「はにわオールスターズ」人脈が起用されている。

A4 ジャズ大名〜地下もぐり酒場
作品のクライマックス、地下牢内での一大ジャムセッション! 
城中ににわかジャズブームが起こっている最中、江戸表からは薩摩屋敷焼き討ちの報せ。東からは薩摩浪士の残党とそれを追う小田原藩兵、西からは薩長軍が交通の要衝である城に迫る。そこで、城主亮勝は「畳を返し、建具を外し、調度を片付ける」と。家老の九郎左ヱ門はついに殿が腹を決めたと思い、「どちらのお味方を?」 しかしながら、亮勝は「戦うためではない。ここをただの『道』にするためだ。幕府も薩長も自由に通ってもらえ。斬り合いになっても、撃ち合いになっても、手出しは無用。私の部屋も無用。」そして、クラリネットを振りながら、「余にはこれさえあれば。これで『道』造りに景気を付けてつかわすぞ!」そんなこんなで始まるセッションだが、ジョー、ルイ、サムの3人に、城中の者はもちろん、菩提寺の住職、「ええじゃないか」の民衆、巡礼中の僧侶なども加わる。地下牢の上の『道』では幕府軍と薩長軍の戦闘が行われているにも関わらず、セッションは夜が明けるまで続いていく。山下洋輔は事前にミュージシャンを招集して、この曲をレコーディング。撮影現場では実際にこの音を流しながら、撮影を行ったらしい。

A5 大名行進曲
朝が来て、家老九郎左ヱ門の掛け声で、セッションは一時停止。地下牢から『道』に上がった家老は、新政府軍の殿銃隊が「トンヤレ節」で行進していくのを見送る。そして、再び地下牢に戻り、カウントの合図。そこで始まる曲が、山下洋輔作曲の「大名行進曲」。エンドロールまで演奏が続き、ミッキー・カーティス、山下洋輔、タモリも乱入。

https://www.banshodo.com/webook/jazznight/144_Jazz_Daimyo.html

■NOTE III
舞台を原作の南九州から駿河に変更し、東海道の難所を細長く占める城のため、官軍と幕府軍の通り道となってしまうという設定を加え、“戊辰戦争を完全に無視してのセッション”という側面を強調した。それ以外は原作に忠実である。黒人俳優はアメリカから来日したが、米国南部の場面はすべて静岡ロケ、英語のセリフはアフレコをかぶせて二重音声で処理された。原作者が若いころに傾倒し、『馬の首風雲録』などの作品でもオマージュを捧げたことのある岡本喜八のメガフォンであり、記者会見で並びながら初期映画の思い出などを話したという。(Wikipedia)

■NOTE IV
“日本にジャズがやってきたのは幕末だった!?“という筒井康隆の奇想天外な短編を、鬼才・岡本喜八が一種のやぶれかぶれスピリットで映画化した快作。もちろん、戦争なんかやってるより、ジャズをやってた方がいいという喜八式“反戦論“もキッチリと描かれている。船が嵐に遭い、幕末の日本へ黒人4人が漂流した。駿河の藩主・海郷亮勝は黒人たちを助けて地下牢に保護するが、彼らの演奏するジャズの虜になり、クラリネットを習い始める。やがて城中がジャムセッションする中、時代は明治へと移っていく……。ラストの10数分にも及ぶ地下牢ジャムセッションはいうに及ばず、全編が、疾走する快感を観る者に与えてくれる。(映画ナタリー)
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