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天然コケッコーのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

天然コケッコー(2007年製作の映画)
4.5
原作は大ファンのくらもちふさこ。あのほっこりさが再現されているか心配したけれど、よくぞここまで長編のエッセンスを抽出できたものだ。さらに、原作ではわからなかった村の風や草木の匂いが映像から伝わってきた。美しい時間だった。

村の分校の中2のそよちゃんと、東京から村出身の母と一緒に引っ越してきた大沢君の恋を軸に、分校の生徒や村人の出来事を丁寧に描いたジュブナイルもの。

<透明感>がこの作品そのものだと言いきってしまいたいほど、爽やかで、この世界が愛おしくなる。

そよちゃんが突然泣くところがいい。感受性豊かで壊れやすいのに、6人の分校の長女としてしっかり者を演じていた。大沢君が現れるまでは。

島根県らしく、神話の祭りがある。 石見神楽のスサノオとヤマタノオロチの激しい舞いに入り込んでしまったそよちゃん。 

恋というより前に、突然広がった世界に心細くなり悲しくなる。さよならする世界があることに気づいた瞬間だ。村の大切な日常はしっかり者のそよちゃんには、重い足かせでもあった。心の内を見透かされたような、心の中のヤマタノオロチが退治されていく。

相米監督の「お引越し」でレンコが滋賀の火祭りで叫ぶシーンと重なった。

くらもちふさこが描くヒロインらしい。周りを気遣い、自意識が芽生える思春期の少女。薄い自我の皮を少しずつめくるように脱ぎ捨てていく痛み。その時が否応なしにやってきたのだ。

そよちゃんが愛を込めてキスするのは…


何年か前の原画展で、「天然コケッコー」のほっこりした雰囲気はご家族・親戚の協力で、村の方言辞書を作り上げた賜物だったことを知り、微笑ましく思いました。大好き過ぎて、入手できない一作以外、手元においてます。長年、難病を抱えながらの執筆、次は歴史ものを描きたいと希望されていました。まだまだお若いので、新しい作品をお待ちしています。
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