デニロ

男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼けのデニロのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

1976年のお盆映画。寅さんというよりも伴映の山根成之監督作品『忍術猿飛佐助』を目当てにしていた。『愛と誠』で早乙女愛を美しく描いてくれた恩義に全作鑑賞で応えていたのだが、全然面白くなくがっかりしたけれど。

『男はつらいよ』シリーズのカテゴリーは何だろうという話。

今回は、お金にまつわる人情噺を軸として、取り巻く人々の情愛、人生の機微を描く。
佐野浅夫に200万円を巻き上げられた太地喜和子。何とかしなくちゃと渥美清は暴走気味になるがとらやの面々に諫められ、ここは社会経験酸いも甘いも豊富な太宰久雄に頼もうということになる。太宰久雄とて決して太地喜和子と太い縁があるわけでもないだろうに、そこは男の子、見込まれて引き下がるわけにはいきません。が、非道を絵に描いたような佐野浅夫に一蹴され悔し涙に暮れてしまう。いや、時間を作り寄り添っただけでも立派なものです。そして渥美清です。法がそれを処罰できないならと/決まってるじゃないか ぼたんをひどい目にあわした男の所だ 野郎、二度と表歩けねえようにしてやる! 裁判所が向こうの肩持つんだったら、 オレが代わりにやつけてやる!/といきり立つ。太地喜和子は、太宰久雄の尽力や渥美清の言葉に号泣するのみです。

力のない渥美清のすることと言えば、高名な画家宇野重吉に頼み込む。ササっと、絵を描いてもらいそれを売っぱらって金に換えて助けたいと思うのだ。そんな無茶な、と思わぬでもないが、必死の渥美清にとっては絵などはその程度の物なのだ。

豪奢な屋敷を構える経済力を自らの絵に求めながらも芸術との相克に悶える宇野重吉にも若き日のドラマがある。何十年振りかに会う郷里で別れた恋人岡田嘉子。/僕には、あなたの人生に責任がある。僕は後悔しているんだ/もし、仮に、あなたが別の生き方を選んだとしたらちっとも後悔しなかったと言い切れますか/岡田嘉子は続ける、/人生には後悔はつきものなんじゃないかしら、ああすりゃよかったなあ、という後悔と、もう一つは、どうしてあんなことしてしまったんだろう、という後悔。

1976年。上野駅。地下鉄改札から地下道を通り国鉄改札向かう上り口にある食堂のラーメンの塩気がそれと同じことだと、二十歳のわたしには十分には伝わらなかったかもしれない。当時40代半ばの山田洋次監督も若かりし日のニヒリズムから徐々に変わって来たのでしょうか。

ラスト。真っ赤なぼたんの花にその答えがあるのだと思います。

原作山田洋次。脚本山田洋次 、朝間義隆 。監督山田洋次。
デニロ

デニロ