うえびん

日本のいちばん長い日のうえびんのレビュー・感想・評価

日本のいちばん長い日(1967年製作の映画)
4.3
史実の中に生きた生身の先人たち

1967年 岡本喜八監督作品

先月、日本武道館で行われた全日本合気道演武大会に参加しました。開会式の冒頭では、会場に集まった1万人が全員で「君が代」を斉唱しました。国を思いながら日本人として共に国歌を歌うのは、学校を卒業して以来、実に久しぶりの体験で身の引き締まる思いが湧きました。

また、日本国内に留まらず、フランス、ルーマニア、チリ、韓国、台湾などの道場からの参加もあり、日本発の武道という文化が世界中で嗜まれていることに、嬉しさと誇らしさを感じました。

そんな体験があって、演武会の終了後は、自然と靖国神社に足が向かい、日本のために命をかけて戦ってくださった方たちに慰霊の思いを届けました。と同時に、国のことを思い、過去の英霊に思いを向けることに、後ろめたさや罪悪感のようなものが、しこりのようにこびりついていることに気付かされました。

これは何か?自分が受けてきた教育によるものだろうと考え、高校生の娘に教科書を借りて読んでみました。

『詳説日本史-改訂版-』(山川出版社)

▶ポツダム宣言に対して、「黙殺する」と評した日本政府の対応を拒絶と理解したアメリカは、人類史上はじめて製造した2発の原子爆弾を8月6日広島に、8月9日に長崎に投下した。また8月8日には、ソ連が日ソ中立条約を無視して日本に宣戦布告し、満州・朝鮮に一挙に侵入した。陸軍はなおも本土決戦を主張したが、昭和天皇のいわゆる「聖断」によりポツダム宣言受諾が決定され、8月14日、政府はこれを連合国側に通告した。8月15日正午、天皇のラジオ放送で戦争終結が全国民に発表された。◀

アメリカ、ソ連、日本、全て主語は国となっています。アメリカが原子爆弾を一般市民に向けて投下し人類史上最悪の大虐殺を行った目的について、その判断を下した大統領の名前について、一切記載がありません。また、天皇のラジオ放送(玉音放送)で、昭和天皇が日本国民に向けて何を語られたかも一切記載がありません。

現在の日本人の生活に大きな影響を与えているはずの、第二次世界大戦について、私たちは未だ振り返りができていない。それが自分の中のしこりなのだと思いました。

本作は、終戦後20年くらいに公開されています。出演者の多くが、リアルタイムに終戦を体験していると思われます。だから、どの俳優の演技にも迫力が感じられ、特に陸軍大将・阿南惟幾の言葉が強く胸に響きました。

「たとえ歴史がどう変わろうとも、日本人の一人ひとりが、自分自身の持ち場で生き抜き、耐え抜き、そして懸命に働く。それ以外に再建の道はない。いや、そればかりではなく、生き残った人たちが二度とこのような惨めな日を迎えないような日本に、何としてでも、そのような日本に再建してもらいたい。」

「国家100年の計」と言われます。戦後77年が経ちましたが、日本は未だ再建の途上にあり、アメリカの属国で自主独立できていません。終戦から100年まで残り23年、そろそろ自分たちの手に主権を取り戻す時期に来ているのだと思います。僕のような戦後教育の申し子が、このような思いを湧かせているのだから。

本作公開時は、アメリカのWGIP(戦争についての罪悪感を日本人の心に植え付けるための宣伝計画)の縛りも強かったと思います。だから日本国内の内戦といった色合いが濃いストーリーではあります。だけど、大戦で亡くなった300万人の同胞への思い、昭和天皇の当時の日本国民に対する大御心はしっかりと伝わってきました。

史実の中に生きた生身の先人たちを知る、感じることのできる貴重な作品です。
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