このレビューはネタバレを含みます
海原に浮かぶ船で10年もの間、一緒に暮らす老人と少女。少女が17歳になったら結婚する約束になっているんだけど、全体的にどことなくお伽話や寓話のような印象がありました。
少女をたらいのお風呂に入れて背中を流してはいるものの、性的な関係は一切ない様子。就寝時にせいぜい手をちょっと握る程度。老人が少女をひたすら自分好みに育んで17歳になるのを待っているようで、それはそれで捻れたエロスを感じました。押し殺したエロスって、露骨なエロスより淫靡だと思います。老人も少女も無言というのが、さらに官能的な雰囲気を濃密にしているかのようでした。それにしても、キム・ギドクの作品って、無言キャラが本当に多いですよね。
少女はさらわれてきたのか。迷子になっているのを助けられたのか。その部分の説明はないものの、明らかにヤバいのは確か。そこに青年がやって来て少女が心惹かれたことによって、老人と少女の関係性が徐々に崩れていくというありがちな流れだけど、結局少女は老人の元へと戻るくだりは、少女の情が老人に移ったというよりも、ストックホルム症候群に近いものを感じさせます。
弓矢は素行の悪い客に対する警告にもなれば、意思表明や自己防衛のツールにもなるし、未来を読むための神具にもなれば、楽器として娯楽的にも機能するけど、少女の股ぐらに放たれた矢を見て、男根的なメタファーなんじゃないか…と思った自分は深読みしすぎでしょうかね。