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完全な遊戯のbluetokyoのレビュー・感想・評価

完全な遊戯(1958年製作の映画)
3.9
意外と傑作だ。前半は、キューブリック監督の「現金に体を張れ」の丸パクリだが、ひょっとすると、「現金に体を張れ」よりも面白いかもしれない。
太陽族を根底からひっくり返してしまう映画。太陽族と言えば石原慎太郎さんだが、原作が石原慎太郎さんになっている。読んだことはないが、当たらずとも遠からず、ぐらいだろうか。
主人公は大木壮二という学生で、小林旭が演じている。といってもかっこうよく暴れまわったりはしない。かなり地味な役である。

壮二は、学生5人のグループの一人である。つるんでいるかどうかはわからない。
太陽族学生一味は、カネがねえなあ、ということで、ぼろい儲け話を考え出す。

川崎の競輪場のレース結果を使って、吉祥寺でノミ屋をやっているところがある。テレビやラジオの中継がなく、レース結果を反映するのに時間差がある。ノミ屋がレース結果を知る前に、電話で知らせて、ノミ屋で当たり券を買ってしまうということだ。
ここまでは、「現金に体を張れ」で、これはこれで、スリリングで面白い。

問題なのは、うまくいったあとのことなのだ。配当金は34万円である。映画公開当時の大卒の初任給は、9.600円。現在の大卒の初任給は22万6,000円である。22~23倍だろうか。ただ、昔は現金の価値がもっと高かったので、金額自体はそれ以上だったと思う。

いまのカネにすると、800万円ぐらいだろうか。

やったあ、800万円ゲットだぜ、である。大穴だったのだろうか。そういう感じではない。おそらくノミ屋なので、射幸心を煽るために、ハイリスクハイリターンになるようにしていると思える。そうでなければ、普通に券を買えばいいわけだ。ちなみに競輪の場合は車券である。
さらに、ノミ屋なので、お客さんに楽しんでもらうために、ある程度は、ノミ屋にカネが落ちるようになっているはずだ。

ということでどうなったのか。そんな現金、用意していないわけだ。なんとか、400~500万円(現在のおカネに直して)ぐらいは払うが残りは後日、おそらく、永久に支払う気はない。

どうせ違法なノミ屋だし、仕事ではなく、遊びのことなわけで、目くじら立ててカネの取り立てなどしなければよかったのである。
それに、そもそも、主人公たちは、太陽族の大学生、食べるのに困るわけではない。
だが、ノミ屋を騙すのも、一種のゲームなのだ。
34万円全額をゲットするのが、ゲームのゴールになってしまっている。

ノミ屋をやっているのは、松居鉄太郎というやくざ者である。

ゲームに熱中する太陽族大学生たちは考える。そうだ、松居鉄太郎の妹、京子を拉致してゆすればいい、と考え付く。

ここでようやく主人公の壮二の登場となる。なぜ、小林旭が演じているのかもわかる。
壮二は、近くのデパートに勤めている松居京子と個人的に親しくなるのだ。親しくなって隙が出来たときに拉致してしまうという手筈だ。

ところが、壮二は、京子と親しくなるに従い、松居家、鉄太郎、京子、母親の三人の貧しい生活を目の当たりにしてしまう。

人生はゲームや遊戯ではないと気付いていくわけだ。演技の経験がある小林旭のキャスティングがものをいう。

最後をあらかじめ知りたくない人はここから先は見ないでください。

鉄太郎はひったくりで何とかカネを作るが警察に追われる。
壮二は、当然、一味だとバレるので、京子は離れていく。
実は、京子はレイプされていた。
京子、アパートの部屋に帰ると、病気の母は亡くなっていた。
京子は自殺する。
壮二、なんとなく、一味の様子がおかしいので、問い詰めると、京子をレイプしていたことを知る。
鉄太郎、一味の中の中心の学生を刺し殺して自首する。そのとき、ほかの学生の一味については話さなかった。
一味、いやー、助かったと胸をなでおろす。
壮二、就職の内定を得る。
一味がやってきて、就職の口をきいてくれと頼む。
壮二、近くの電話ボックスから警察に電話して、自首し、すべてを自白する。

太陽族は破綻したわけである。
けっこう、こうしたアイデアはドラマチックに表現してしまったりするが、抑制されていて、うまくコントロールできていると思う。
だから最後のオチが効いてくるのだ。
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