のーのー

ドラえもん のび太と翼の勇者たちののーのーのレビュー・感想・評価

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ちょっとビックリするぐらいの良作だった!今まで順番に見てきた中ではもしかしたら最高傑作かも…。


東宝ロゴの画面から入る鳥の鳴き声、緑の色合いや陽炎の表現など美しい背景美術をこれでもかと見せる長回し、出木杉の解説がそこはかとなく藤子・F・不二雄イズム濃厚な導入、それまでと違いちゃんと本編に即したOP映像と、開始5分でクオリティがこれまでと段違いになってる!と驚いた。『海底鬼岩城』以来の垢抜けっぷり。

『のび太の恐竜』を思わせる序盤ものび太の探究心と執着の強さが嫌味なく描かれているし、何より同じ崖から落ちることでグースケとのび太が共感し合える存在であることを示していてとても良い。

バードピアに訪れてすぐのシークエンスの、次々出てくる鳥人たち(ダチョウタクシー、貴婦人、園児etc…)のキャラ立ちっぷりが見ていて本当に楽しい。ホウ博士のフクロウ型の家(耳に出入口があるのかわいい)はじめ建物の造形もいちいち最高だし、ミルクのキャラクターもめちゃめちゃ可愛いし、ずっとニコニコして見てられる。
とりわけホウ博士周りの描写が魅力的だった。グースケが歳のだいぶ離れた彼のことをごく自然に「大親友」って紹介してるの良すぎる。あと、スネ夫が石版に触れたのを注意したとき「驚かしてすまんかった」とか言ってるの細かい描写だけどめちゃめちゃいい人柄だ…って思った。だからこそ憲兵みたいなやつに石版壊されるの本当に悲しくなっちゃった。あとでタイムふろしきで戻ってよかった。

そして何しろ、中盤の見せ場であるイカロスレースのシーンがすごい。キャラクターの動きでスピードや風や空気抵抗を感じさせる渾身の作画。このシリーズで純アニメ的な動画の良さを感じたことは正直ほとんどなかったので感動した。それだけでなく、ツバクロウがグースケを見直す場面が説明的なセリフではなく表情とアクションによる演出なのもすごく良いと思った。

後半から出てくるイカロスのキャラも好き。基本的に無表情の何考えてるかわからない感じが、大型の鳥ってこういう表情してるよな〜と鳥っぽさを誰よりも感じさせる一方で、首から下のガタイの良さは人間のそれすぎて、他の鳥人キャラクターのデフォルメ加減と全く違う造形が異質だった。あと単純にめちゃめちゃデカいし正直不気味でもある。でもこの異形さが神話的で特別な存在としてふさわしく、個人的には好みのキャラデザだった。

それから後も、ドラ映画名物(?)の人類に絶望したイカレ天才科学者が久しぶりに出てきたかと思えば、クライマックスはまさかの怪獣映画までやってくれるという大サービスで、最後までテンション上がりっぱなしだった。

その他にも、スネ夫と雛鳥、静香ちゃんとピーコといったサイドストーリー的な要素が充実してたのも、作品世界の広がりみたいなものを感じさせて良かった。

作中で明かされるとあるゲストキャラ同士の意外な関係は、コミカライズ版だとさらにウェットな描写が入るんだけど、映画版だと最低限の描写にとどまっていた。前述のレースでのツバクロウの描写と同じくスマートだなと感じたけど、子供向けにしては要求されるリテラシーが高めの描き方だと思う。

ダチョウタクシーの行動がどういう理屈かサッパリわからないとか、ジャイアンとスネ夫はどんな気持ちで警備隊にちゃっかり入ってるんだよとか、最終対決の決着の雑さとか、ツッコミどころも多々あるけど、なんかそういう部分がないと可愛げがなさすぎるくらいに良く出来た作品なので、それすらも魅力に感じてしまったと言ったら大げさだろうか。それくらい好きな作品だった。

これがキッカケで生物学や機械工学や鳥人間コンテストに興味持ってその道に進んだ子どももいるだろうし、ドラ映画の中でももっと評価されていい代表作の一つだと思う。


映画の感想としては蛇足だけど、個人的にTHE HIGH-LOWSの名曲「バームクーヘン」(1999年)の歌詞を強く連想したので、本作が好きな人にはぜひ聴いてほしいです。
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