名作と言われている1941年の島耕二監督による『次郎物語』(日活)よりも、全体的にやさしいタッチで描かれており、それほど涙涙の作品にはなっていない。
弟が算盤を壊してしまったにも関わらず、祖母は次郎の仕業だと決めつける。日活版では、算盤ではなかったと思うが…、それはいいとして、こういう筋の中で、この松竹版には救いがある。それは、算盤を壊してしまった弟が正直に次郎に謝りに来るという点だ。日活版では兄弟も祖母と同類で次郎に理不尽な態度を取るが、松竹版では兄弟が祖母と同類に描かれてないのだ。
アクが強くないので、日活版を好む人は生温く感じるかもしれない。
大鵬のセリフ棒読みを観て、俳優の演技がいかに難しいかがわかる。
この作品は、ひとつひとつの構図が美しかった。特に田園風景、そして何度も背景に登場する富士山。
野崎正郎監督の作品は初めて観たが、絵画的でセンスを感じた。