ellshootingstar

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それから(1985年製作の映画)
4.5
かつてTV放映をビデオテープに録画し、何度か観ているが、サブスクにあがったので再鑑賞。

呟くように静かに語られる少なめのセリフ・映像の間(ま)と、主人公が歩く姿、橋に集う登場人物の様子、インサートされる路面電車シーンにより描かれる心象風景に情感が溢れる。

松田優作のはにかむような遠慮がちな物言いと表情が、鑑賞する側の心情の想像を膨らませる。ドラマの松田優作に夢中になった世代なので、カッコ良さに胸が鷲掴みである。

ぶっ飛んだ印象だった藤谷美和子が、ここでは控えめな妻を演じている。タイトルバックに出てくるセピアカラーの写真が映画ポスターには使われていたが、明治時代の髪型も似合い、可憐さを湛えた美しさ。それが評点のプラスに大きく影響している。要は、この時の藤谷美和子が大好きなのである。「さみしくっていけないから、また来て頂戴」と代助に本心を吐露するシーンが胸に響く。

小林薫の厳しく、少し怖い亭主も味がある。明治の言葉遣いが合っている。

中村嘉葎雄と松田優作が全く似ていない兄弟なのだが、経済界でのしている感じが出ている。

さらには草笛光子、笠智衆という布陣。そんな中、若かりし森尾由美の大根さは目立たざるを得ない。

森田芳光監督の本作の次が「そろばんずく」で、昭和バブル期に向かう軽薄と喧騒という、本作とは真逆の雰囲気を描くことになるのも興味深い(「それから」の日糖事件はバブル的かもしれないが)。そして、「そろばんずく」にも小林薫が出演しており、本作とは全く違う怪演を見せており、多彩である。