あなぐらむ

わが町のあなぐらむのレビュー・感想・評価

わが町(1956年製作の映画)
3.7
フィリピンの難工事に携わった浪花男の苛烈な半生を物凄いスピード感で見せる、織田作之助原作の映画化。
ここに明治~敗戦までの帝国政治の批判を見るのは容易いけれど、寧ろ死の影に憑かれつつ、それでも走ろうとする男の映画として受け取りたい。辰巳柳太郎の芝居に圧倒される。

自分の夢でフィリピンに渡り、嫁を病死させてその娘夫婦も死に追いやり、更には孫の婚約者まで「人間は体を責めて仕事せんといかん」という理屈を無茶ぶりするターヤン(主人公)だが、彼自身もまた、そういう生き方を強いられた愚直な男であるのが最後で痛い程判る。
誰よりも悔いているのは彼なのだ。

妻と、成長した孫を南田洋子が二役で演じているが、これが何とも美しい。
三橋達也とは同じ川島の次作でも共演。隣に住むターヤンの理解者・殿山泰司がやはり抜群。
どこか超人的なターヤンは「とんかつ大将」の大将や「幕末太陽傳」の佐平次に通じるキャラ。この次の年、川島は「幕末~」を撮ることになる。

関係ないが監督:川島雄三、チーフ助監督が松尾昭典、セカンドが今平さんて、俺ぜったいこんな組怖いわと思ってしまった。厳しそう。