レインウォッチャー

吸血鬼ゴケミドロのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

吸血鬼ゴケミドロ(1968年製作の映画)
3.0
「ワレワレハ」ってしゃべる宇宙人、都市伝説じゃなかったんだ!謎の感動。

時は60年代・特撮ブームの頃、松竹からドロップされた数少ない特撮映画。東宝(ゴジラ)や大映(ガメラ)のような大手にはないアングラ感・インディー感、そして「急いで作りました」感が味わえる。
そりゃあ今の目からは設定も演出もガバガバに見える…けれど、そこは時代感プラス当時の特撮=子供向け、ということで「おおらか」と捉えたいところ。いざ脳と眼球を前世まで巻き戻さん。

飛行機の墜落事故に遭った乗客やクルーが、憑依型の宇宙生命体ゴケミドロと遭遇。奴に襲われる恐怖と、極限状態(一応)の中で崩壊する人間性の恐怖、両面にさらされる。『遊星からの物体X』型のSF怪奇サスペンスといった風合いだ。

ゴケミドロの目的はシンプル地球征服で、「そこに地球があるから」程度のモチベしかうかがえないのだけれど、地球人たちが互いに戦争を繰り返し弱体化しているのを好機と突いてきたところがポイント。
反戦意図の映像コラージュが多用されたり、乗客にベトナム戦争で家族を亡くしたアメリカ人がいたり、と子供向けとはいえ確実にトラウマを植え付けようとする気概がグッドだ。

しかしそれをいかんせん上書きしてしまうのがやはりヴィジュアル面の強烈さ(※1)で、サイケデリックな明滅とともに描かれるゴケミドロ憑依シーンは明らかに「やりに」いっている。

乗っ取られる人物の額にパックリ「割れ目」ができて、「白濁」したゲル状の物体が入ったり出たり…という…子供に連れられて観に行ったお父さんお母さんの、笑いを慌てて殺した結果仏様のようになった面持ちがスクリーンの光にぼんやり照らされる様が想像される。
子供たちにしても、やがて成長してその意味に気付いたとき、芋づる式にトラウマが時限爆弾のごとく再発したことだろう。どこまで計算かわからない(たぶん天然)けれど、結果的に周到な作品となった。

そもそもゴケミドロなるワードがすごい。さっぱり意味はわからないのに(造語らしい)、たぶん一目見ただけで長年忘れない引っかかりがある。
そして、それってある意味正しく効果的な「征服」である気もするのだ。

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※1:このインパクトには、稀代のホラー漫画家・伊藤潤二氏も衝撃を受けたと語っている。
また、生死をライティングの変化で表現したり、色々制限がある中で駆使される小技・工夫も多く見られる。