きゃんちょめ

ONE PIECE FILM STRONG WORLD/ワンピース フィルム ストロングワールドのきゃんちょめのレビュー・感想・評価

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弱肉強食のエスカレーションが見事。登場人物のナミが"金獅子のシキ"に誘拐される。そんなストーリーはクソどうでもいいんだわ。

ストーリーなんか、浅くていいんだわ。もうワンピースにストーリーなんかねぇよ。設定が膨大になり、複雑化する特殊能力(ゾオン系もロギア系もみんな死ね!)。いたるところで矛盾が生じている原作漫画。なんの哲学もない。伝えたいメッセージなんかない。すべてのフラクタル(蓮實重彦の言う『映画的記憶』の高踏派的データベース)がセルフパロディとして組み込まれて、断片化して、作品の中で刹那的にきらめいている。空中戦は『猫の恩返し』。セカイ系的な戦闘は『エヴァ』。空中戦闘は『ドラゴンボール』。島が浮いているのは『ラピュタ』。プロットの骨格は宮崎駿の初期『太陽の王子ホルスの大冒険』。なんにもオリジナリティもなければ哲学もない。アニメーターたちが自分の見てきた好きなアニメの断片を入れ込んでいる。

というか、そもそもほとんどのアニメーターなんかには思想性はない。宮崎駿にすら思想性はない。だから単体では決して完結しない。すべてがアニメ集合体のダイナミズム運動体のアクターとして自動生成している。

むしろなんの意味もないどうでもいいギャグが怒涛のようなスピードで生成されては消えていく。

人間たち(パラミシア能力者)にもまったくリアリティがない。すべての人間が人間に見えない。戯画にすら見えない。


これは60年代末からのジャンプ的イデオロギーですらない。1997年からのジャンプ的インフレの結晶だ。友情・努力・勝利すらひとつのたわむれになっていく。

だんだん『宇宙戦艦ヤマト』のごときアナクロニズムになっていく。"異世界における友情・努力・勝利"になってしまった。ジャンプ的なものの現実感をすべて無化してクリスタライズさせている。ただゴム人間が叫んでいてうるさいだけ。なんのリアリティもない。

観客が自分自身のメタファーとして見ることすらできない。ガラガラドン。なんでもあり。なんでもありのクソさと素晴らしさ。ルフィに内面はあるのか。単純な動機付け。なんでもあり。敵もなんでもあり。突然羽が生えて飛ぶ村人たち。すべてが無意味に拡散していく。何のルールもない。誰にも心がない。見事。『どうせ最初負けて、どうせ最後勝つんだろ。ほらやっぱりな。』まさに見事。見事なクソのかたまり。シュワシュワしたラムネのように、見ると何にも残らずに、ただのバカになる。そして日常は続いていく。見る前と見た後で何にも変わらない。


素晴らしい。
きゃんちょめ

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