SANKOU

あ・うんのSANKOUのレビュー・感想・評価

あ・うん(1989年製作の映画)
4.4
昭和十二年というと日中戦争が始まり、そこから第二次世界大戦が始まるまでの、少しずつ社会が不穏な空気を帯びて来るも、ささやかな贅沢も出来て、人々が笑顔で暮らすことが出来る最後の期間だったのかと思う。タイトルのあ・うんが示すように門倉と水田という対照的な戦友と、水田の家内たみとの間の微妙な三角関係が、穏やかではあるがドラマチックな物語を生み出している。まだ自由恋愛がそれほど許されていなかった時代で、親の許可がなければ交際も出来なかった時代。見合いでお互いに引かれながらも、親の反対で破談になった白川と水田の娘さと子との心の通い合う姿も美しかった。白川が小説から引用するプラトニックな愛が、まさに門倉とたみとの間の関係を表している。それでもたみが最終的にはいつも夫の仙吉を立てる姿がとても印象的だったが、今以上に世間体を気にする生き方に多少窮屈さを感じさせられた。終盤に従い徐々に戦争の足音が近づき、時代の流れに従うしかない彼らが、もうこの先会うことが出来ないかもしれないがその一瞬を大事にしようとする姿に感動した。脚本、演出も良かったが、高倉健、板東英二、富司純子の名優なくしては出来なかった作品でもあると思った。そして富田靖子の初々しさがとても良かった。割りと饒舌な方の健さんの姿が心に染み入った。
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