りっく

あ・うんのりっくのレビュー・感想・評価

あ・うん(1989年製作の映画)
3.0
戦友同士の高倉健と板東英二が、高倉健は板東英二の妻である富司純子に、板東英二は芸者に、そして板東英二の娘である富田靖子は真木蔵人に、それぞれ実らない恋心を抱く物語。

高倉健の周囲を固める、その奇抜なキャスティングは明らかに彼の今までのフィルモグラフィーを想起させる。板東英二との境界なやり取りは「幸せの黄色いハンカチ」の武田鉄矢だし、時代に抗い恋をしようとするカップルを見つめる眼差しは「冬の華」で池上季実子に向けるそれと同様だ。

そして何と言っても富司純子=藤純子だろう。友人の妻である彼女に恋心を寄せ、それを周囲も黙認しているという関係性は、東映任侠映画で苦楽を共にした関係性があるからこそ成立するもの。お互い歳を重ねて再会した照れと喜びで満ち満ちている。

だが物語自体にドラマ性はそれほどない。戦時下の恋という部分も劇中で憲兵に真木蔵人が一発殴られるだけで、そんな彼らの自由さに未来を託す結末も抑圧描写が足りないからこそ効いてこない。また、登場人物がある程度裕福な身分だからこそ、普遍性を持たないあるブルジョアたちの物語に終始してしまっている。
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