映画は遠い過去のはなし

バルタザールどこへ行くの映画は遠い過去のはなしのレビュー・感想・評価

バルタザールどこへ行く(1964年製作の映画)
3.5
2018年1月20日

バルタザールと名付けられたロバの無垢な目を通して人間のエゴイズムを冷徹に炙り出した作品。

最初にバルタザールを可愛がっていたマリーも不良少年ジェラールの誘惑に負け、次第にバルタザールから離れ、堕落してゆく。
ジェラールのマリーに対する妬み、バルタザールへの虐待、果ては不良グループらによるマリーへの暴漢。
競売でバルタザールを引き取ったお金に妄信な老人は、マリーとの会話で「人生とは市場だ。言葉すらいらない、金があればいい」と言う。
そのような人間たちの所業を只々バルタザールは抗うことなく見つめ続ける。
ブレッソン監督の特徴なのかもしれないけど、そこにはマリーの家族の救いも、悪人たちに対する報いもなく、観る側の希望的観測は無惨にも断ち切られる。
ロングショットとアップショットのギャップさ。
そしてラストのバルタザールが羊に囲まれながらのシーンは聖書的でイエスキリストの受難を彷彿とさせる。

ドラマチックな場面で流れるピアノの旋律が物哀しく、時折流れるリズミカルなジャズがモダンで良かった。