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カールじいさんの空飛ぶ家のMilletのネタバレレビュー・内容・結末

カールじいさんの空飛ぶ家(2009年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

ディズニーピクサー映画でかなり上位で好きな作品。というか人生の好きな映画ランキングNo. 1はぜったいに『カールじいさんの空飛ぶ家』である。

この映画、冒頭10分で人の人生を描ききっている。そしてそれは何度見ても泣けてしまう、ちなみにこの10分間、主人公のカールはほとんど喋らない。明るくてお転婆なエリー(陽キャ)と、自分の意見をあまり話さないおとなしいカール。
子供の頃2人が出会った廃墟を買取り、結婚式。
結婚式でもエリーは早くキスしたくてカメラ撮影すら待っていられないで、子供のように小さくぴょこぴょこ跳ねている姿が可愛い。そんなエリーにカールもメロメロだった。
結婚式の後そのままの姿でマイホームへ行き、ドレスとタキシード姿で家のリフォームを自力で行った。(それくらいお金がないという証拠でもある)

エリーは元気よく丘を駆け上がり、カールは息切れをおこしながら丘を登る。ピクニックをして2人はいろんなことを話した。
夢中になって話すエリーの楽しそうな様子、声、カールにとって話の内容なんか本当はどうでもよくて、こんな何もないことではしゃぎ幸せそうに笑うエリーの存在こそが愛おしかったのだ。幸せを吸い込むように息をして、目を閉じる。

お互い別々の本を読んでいながら、無意識で繋ぐ手。バラバラの形の椅子、真四角でカタブツなカールと、丸くユニークな形のエリーの椅子は2人の性格の違いを表現している。そんな2人が手を取り背中を預け、笑い合う。
夫婦とは、愛とはこういうものなのだ。

それから「子供が欲しいね」なんて話したりもして子供部屋の準備なんかもしたが、結局子供に恵まれず(流産した可能性も?)落ち込むエリーに、自分たちには冒険がある2人で楽しく暮らそう、と寄り添うカール。

2人は約束のパラダイスの滝への旅行資金を貯めようと貯金を始める。
しかし車のタイヤが壊れて貯金を修理費にあてる。また少し貯金が貯まった頃カールが骨折して貯金は治療費へ。また貯まってきた頃台風により家が壊れ貯金は家の修理費になった。
そんなことをしているうちに何十年という月日はあっという間に流れ、シワだらけで白髪の2人。生活は安定しても2人は何一つ変わらず愛し合っていた。お互いがお互いだけを見つめ合って、そんな穏やかな日々もカールにとっては愛しい時間だったのだ。

窓拭きをしながら家の中と家の外から目があってパッと笑顔になり、夜は2人でワルツを踊る。パラダイスの滝の貯金のことなんてすっかりほったらかしだったが、それでもカールは初めて会った時エリーに誓ったことを忘れてはいなかった。
エリーに内緒で航空券を買い、サプライズプレゼントをしようとする。
航空券を持ち、あの丘の上で渡そうとするが、いつもならカールより軽快に丘を登るエリーはその日丘を登り切ることはなかった。
胸をおさえて苦しそうにうずくまる。

それから画面が右に流れていくのだが、丘の対になってるようで素晴らしい演出だった。
丘は右上がりだが、ベッドに横たわりぐったりしたエリーは右下がりになっている。
人生のピークから下り坂へ、というような表現として捉えられる。
それからあっという間に最期の時を迎え、結局カールはパラダイスの滝へ連れて行くという約束を果たすことも出来ず独り残されてしまった。

物語はここから始まる。
冒頭の演出だけでこれだけの情報量。私が気付いてないだけでまだまだたくさんの妄想広がるシーンだ。
本当に人生とは一番夢を見られる時期にはお金に恵まれず、大切なものを大切にするには短すぎる。
いつでも、いくつからでも人は変われるが、失ったものは戻らない。

だから、わたしの冒険ブックの言葉は優しくてせつない。
冒頭で空白のページだった「これからわたしがやること」の先のページには、叶えられなかった夢のことではなく、「これまでわたしがやってきたこと」の思い出が飾ってあった。

死期を悟った際に付け加えたであろう
「楽しかったわ ありがとう 新しい冒険を始めて 愛を込めて エリーより」
エリーのいない椅子を見て、カールは自分の人生を歩む誓いの十字をきる。
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