石井隆監督ならでの情念演出と雨と血と暗闇とネオンライトに彩られた映像、男盛りなメインキャストとバイクでの事故による重傷から復帰したばかりの痛々しくも禍々しいオーラを放ち主役を圧倒する不気味なビートたけしの存在感。監督やキャストの充実したパワーが重なりあったことに加え、数年前に製作されていたらオールスターの色合いが強くなっていたはずだし数年後ではプロデューサーの事情でキャスティングが揃わなくなっている可能性が高くなったのでこの時代だからこそ作り得た奇跡の作品とも言える。
一応石井作品のヒロインである名美は登場するが、すぐに退場するのが本作の特徴。そして女性絡みのエピソードは前半で撤退し、あとは同性愛的な関係を持つ男性キャラクターたちによる情念がぶつかり合い独特なホモソーシャル・ノワールとしてのドラマを形成する。そしてラストは情念による殺意の決着で締め括られる。
終盤の美しくも無惨な雨中での銃撃は本木雅弘の美しさ、永島敏行の狂気、狂乱のビートたけし、渋い根津甚八とそれぞれの役者の持ち味が発揮されていて邦画史に残る名場面に。一方で話は結構強引だけれど、役者と映像が素晴らしすぎて気にならない。
竹中直人の演技がやり過ぎに思えるが、他の役者と違う狂気を表現するためにはああするしかなかったと最終的には納得できる。そしてあの演技があってこそ家のシーンの怖さが引き立つわけだし。
それにしても本作でデビューし、『死国』『バトル・ロワイヤル』『キル・ビル』と血なまぐさい作品を出世作としていく栗山千明は凄い経歴の持ち主だな。やはりあの美貌が普通のドラマとはそぐわないのか。そして本作では敵味方に別れた椎名桔平とビートたけしが、『アウトレイジ』でタッグを組むことになるのは武監督の粋な配慮というやつか。