南森まち

大人は判ってくれないの南森まちのレビュー・感想・評価

大人は判ってくれない(1959年製作の映画)
3.9
フランソワ・トリュフォーの自伝的映画。
パリを舞台に、子どもが大人になる日々とその哀しい顛末を描く。
主人公は、いたずらと文学が好きな12歳の少年。アントワーヌ。
両親は時々ケンカをしているけれど、気の合う友人もおり楽しく過ごしている。

しかし、ある日、親友と一緒に学校をサボった主人公は、母親の浮気を目撃してしまう。
ズル休みに怒る教師、妻の浮気を察して不機嫌になることが増えた父親、強気な態度を崩さない母親。周囲の大人たちのストレスの標的にされ、主人公は家出を決意する。彼の日常は大きく変化していく・・・というお話。

それまで絶対と思っていた両親や教師に失望し、反発から小さなワルさに手を出していくという、誰しもが経験する姿を描いている。
全編にわたって抑えめの演出で、今でいう「ネグレクト」「アダルト・チルドレン」を描いている。家庭内に問題を抱えた子どもが他者の期待に過剰に敏感になり、現実とのギャップに絶望する・・・というテーマがこんな昔からあるとは知らなかった。
主人公の心理描写を(あけっぴろげな台詞ではなく)状況と抑えた演技で見せていく丁寧な作品。
90年代まではこういう繊細な創作は多かったが、最近は少ないですね。

モノクロ映画だが、少年たちのオシャレな服装や、パリの街並み、軽快な音楽が美しい。
また、映像では不穏さを喚起するサーカスのシーンや、無言で延々と走り続けるラストシーンが強く印象に残った。

原題は「400回の殴打」。「無分別な生活をおくる」という慣用句になるらしい。
邦題はド直球だが、この映画のテーマをズバリついており素晴らしい。