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まぼろしのtakのレビュー・感想・評価

まぼろし(2001年製作の映画)
4.0
美しく歳をとる、ってよく聞く言葉ではあるけれど、シャーロット・ランプリングはその見本のような人なのでは。彼女の出演作は中学生の頃、「さらば愛しき女よ」をテレビで観たのが最初で、以来いろいろ観た。50代で出演した本作では、その年代の女性の美しさを改めて再認識させられる。映画の中でも出勤前にジムに行っているとか出てくるけれど、美貌を保つのに努力しているのかなぁ。でもこの人のことだからクールに「何も」と言われちゃいそうだ。

夫との静かなバカンスの最中、海岸で夫が行方不明になってしまう。夫の死を受け入れられない主人公は、夫のまぼろしを見て、語りかけるようになる。残された者の心情を、静かな語り口でフランソワ・オゾンは描写していく。そこに台詞は要らない。ベッドに横たわった彼女を二人の男性の手が愛撫する幻想シーンは、実に美しい。ひと昔前ならクロード・ソーテ監督あたりがロミー・シュナイダーで撮りそうなお話?だけど、それを撮影当時まだ30代の監督がこなすなんて。やるなぁ。

主人公を執拗に見つめ続けるカメラの視点は、意地悪と思えるほど厳しい。けれど、他の監督なら”あきらめの悪い妻の物語”にしそうなところを、現実と向き合おうとする主人公を背中からそっと支えているような優しさがこの映画にはある。しかもそれは「8人の女たち」とは全く違ったタッチ。

冒頭、別荘で夫と静かな時間を過ごすときの彼女の笑顔が、僕にはまず印象的だった。こんな穏やかで幸福そうな表情は、他の出演作では見たことがない。男友達に言い寄られてフフッと笑う自然な表情も。妖しいミステリアスな役柄が多い人だけに、僕にはそう思えたのだ。それが物語の後半、一転して厳しい表情に変わる。最後までランプリングから目が離せない。
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