トリュフ王

パンチドランク・ラブのトリュフ王のネタバレレビュー・内容・結末

パンチドランク・ラブ(2002年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

 この映画を見終わってすぐの感想は「これって、ホラー映画・・・?」だった。ラブストーリーというと、大体は観客が主人公に共感できるように作られているものだが、この映画の主人公バリーにはひたすら共感できない。それどころか、彼の不可解な行動や、支離滅裂な発言、衝動的な破壊行為は観客を不気味にさせるものだ。
 それにラブストーリーにしては、両者の葛藤や、恋に至るまでの心の変化の過程はほとんど描かれない。ヒロインのリナは、この不気味な主人公を包み込むようにすべてを受け入れる。見方によっては、「都合のいい女」に映ってしまう。

 思うにこの映画は、恋愛に至るまでの過程ではなく、他人の恋愛の不可解さを描こうとしているのではないだろうか。過程を描きたいわけではないから、ヒロインはすぐに惚れるし(写真を見て会いに来たと言っているが、正直どこが良かったのか分からない)、すぐにベッドインする。ここまでバリーは、ずっと受け身である。
 重要なのは、バリーの過剰なまでの変化だ。前半、チンピラに殴られても反撃することもできずに悲鳴を上げながら逃げたと思うと、後半では、恋人となったリナがチンピラの襲撃によりケガを負ったことに腹を立て、チンピラをボコボコにする。挙句の果てに、チンピラのボスの所にまで乗り込み、なんと気迫だけで打ち負かしてしまう(ボスが腹いせに捨て台詞を吐くが、バリーにビビッてすぐに引っ込むのが面白い)。

 恋愛という二人の間だけの出来事は、他人には共感できない価値観を生み出す(「なんであんな奴と付き合っているの?」、「どうして別れないの?」、「よく人前でそんなにイチャイチャできるなぁ」という疑問がそれを表している)。主人公に過剰なまでの変化を設定することで、他人の恋愛の「共感できなさ」を際立たせているのだと思った。
 
 観客に疑似的な恋愛の感覚を起こさせるラブストーリーのテンプレートとは大きく違った、ひたすら置いてけぼり感を食らう (キスシーンで流れる感動的な音楽に笑ってしまった) 、「他人」のラブストーリーというのは新鮮ではないだろか。
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