『青い影』
「俺たちは足取りも軽くファンダンゴを踊りまくった。
フロアを側転して駆け抜けるみたいに。
そしたらまるで船酔いしたみたいな感覚になっちまってさ。
けど客は「もっとやってくれ」なんて言うんだよ!」
これは、プロコル・ハルムの名曲「青い影」の歌詞の最初の一節である。
主人公のジミーが(架空のインタビューに答える形で)この歌詞を引用することでバンドでの経験を鮮やかに例えて総括してみせるのだが、「ザ・コミットメンツ」はまさにそんな映画だ。
バンドの結成から崩壊に至るまでもう馬鹿騒ぎ(=ファンダンゴ)そのもの。
ソウル・バンドとは言っても音楽以外には取り柄のない見事なアホぞろい。
頭の中身はアレしかない野郎どもなので、黒いグルーヴがセックスを連想させるソウルやルーツR&Bとの親和性は抜群。
そんな訳で、定評のあるこの映画のライブシーンは最高なのである。
しみったれていて、陰鬱な曇天に始終押し潰されそうなダブリンの街がひたすらくすぶり続ける若者たちのしがない人生と重なって見えるのだが、それだけに唯一の輝ける場所であるステージが強力なコントラストを伴って鮮烈な印象を心に刻み込んでくれる。
ジミーが架空のインタビューごっこをやっているのと同様に映画の中のザ・コミットメンツのバンド活動も一瞬の幻想のように駆け抜けてしまい、後に残ったのは夢の残骸(船酔い)だけだったようだ。
ところで現実の方はどうだったかと言えば、公開当時にこの映画を見て味わった船酔いの感覚からまだ覚めやらずに相変わらず時折は彼らの音楽を聴いてファンダンゴを踊っている僕は、「もっとやってくれ!」と今も願わずには居られないのだ。
↓「Try a Little Tenderness」/ The Commitments
https://youtu.be/bH2sSzneWYg?si=jO200oYB5HjGu8Tk