櫻イミト

われらの恋に雨が降るの櫻イミトのレビュー・感想・評価

われらの恋に雨が降る(1946年製作の映画)
3.0
この作品がフィルム・ノワール風なのは、当時フィルム・ノワールの監督たちは神棚に祀られんばかりに羽振りが良かったからだ。その中で一番ピンと来たのはマイケル・カーティスの作品で、彼のストーリーを単純にすっきりと物語る才能はすばらしい。毎日毎晩、私は映画館に通って彼の映画を研究したものだ――イングマール・ベルイマン

ベルイマン監督の2作目。行きずりに駅で出会った前科者の青年と帰るあてない若い女が、それまでの人生を抜け出すべく二人で社会の波をひとつひとつ乗り越えていく物語。デビュー作「危機」が興行的に失敗しスヴェンスク・フィルム(SF社)での監督業を干されたベルイマンが独立プロの元で制作。

VHSで鑑賞したら余りにも画面が暗く黒つぶれしていたのでDVDで再鑑賞。前半はフィルムノワール風な暗い雨のシーンが多いが、内容はヒューマンドラマ。初期ベルイマンの基本はフランス詩的リアリズムの影響下にあるとの事で、加えて街ロケが多い印象。

冒頭に狂言回し役の老人がこちらに前口上を述べて映画が始まる(最近デッドプールなどで第4の壁破りが話題にされているが大昔からの手法だ)。あとはテンポよく濃密に、若いデラシネカップルの社会参加への道のりが語られていく。クライマックスで再び老人が重要な役回りで登場する仕掛けなど、ベルイマンの器用な演出術が感じられる。

まだ哲学的なテーマは見られず、人間に苦悩をもたらす社会の在り方が描かれている。ベルイマンらしさは感じられないものの、それなりに楽しめる秀作だった。

※ベルイマン監督のベースにフィルム・ノワールが横たわっていることは、後の作品を読み解く際の大きなカギになると思う。
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