りっく

ミッドナイトクロスのりっくのレビュー・感想・評価

ミッドナイトクロス(1981年製作の映画)
4.2
映画の音響効果の技術者というマニアックな職業を生業とする男が、ある事件をきっかけに普通に生きていれば出会うことのないだろう美女と出会い、事件の真相に迫るが、その恋は成就しなかったという悲恋物語であり、荒唐無稽な設定ではありながらも、その哀しさが身に染みる作品である。

特にラストに絶命した彼女を抱き寄せる背景で花火が無数に上がるのを360度パンして写すカメラワークや、最後に彼女の悲鳴を映画にアフレコとして当て込むことで、彼女の命をスクリーンに刻み込み、そして雪がちらつく中、彼女が自分の名前を呼ぶのを寂しげにベンチで聞いているトラボルタの表情がとてもいい。

殺伐とした都市の日常と非日常のはざまに落ち込んでしまった孤独な男女の、心の触れ合いと悲劇を描く。デパルマの作るスリラーの登場人物の多くは、過去にトラウマを抱え、現実との接点を見失って自閉しており、たいがいはメディア機器に囲まれた生活を送っている。本作の主人公もかつて警察内部の汚職摘発班のメンバーだったが、彼が装着した盗聴機器の不備により仲間を死なせてしまったことで内閉し、今は映画の温床を通してかろうじて社会との接点を保っている。

この事件に挑むことは彼にとって過去のトラウマを克服するチャンスである。そして夢遊病のごとき彼は半ば無意識のうちに彼女を巻き込み、過去の過ちと同じシチュエーションを再現してしまう。個人の中で膨れ上がる妄想的な現実が、生身の女性の実存をも凌駕してしまう恐怖。彼は自らの真実を知って崩壊し、再び映画の虚構世界へと埋没してゆくしかないのだ。
りっく

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