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限りなく透明に近いブルーのいとJのレビュー・感想・評価

限りなく透明に近いブルー(1979年製作の映画)
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 村上龍本人の監督・脚本による同名小説の映画化。原作は、米軍基地の近くに住む若者の退廃した生活、文化的な固有名詞の多さ、空虚な主人公像、文章のうまさなど、評するにあたって語ることがさまざまあった、というか、「近現代日本文学史」上、圧倒的な知名度と重要度を誇る作品(だが、そんな「文学史」も再検討すべきだろう。読むべし、と言われる作品も、今読むと、マッチョでミソジニスティックなものが数多い)。

 それで、映画は、というと、退廃を通り越して(もしくは毒抜きされて?)、退屈になっている印象。性と暴力と薬物に貫かれた、ハードパンチャーな原作の文章の感じはない。ただ周囲のものを観察するように眺めていた、空っぽな主人公は、映画ではうってかわって、どこにでもいる飄々とした兄ちゃんにしか見えなくなっている。インモラルな感じがほとんどなくて、ある意味、観やすい。

 ただ、面白かったのは音楽で、山下達郎、上田正樹、井上陽水、小椋佳といった面々による洋楽のカバーが劇中で流れている。井上陽水のサイモン&ガーファンクル「Cloudy」や上田正樹の「男が女を愛する時」、小椋佳の「ラヴ・ミー・テンダー」、山下達郎がラスカルズのカバーで「Groovin’」など。貴重な音源だし、米軍基地の近くに住む若者を描いた作品の劇伴としても、何らか示唆的で、意味を持たせていると思う。エンディングで流れるカルメン・マキの歌にも驚いた。

 あと、ラスト、米軍の飛行機のエンジン音が聞こえる中、リュウがコーラを地面に垂らして線を描き、それをスタートラインにして走り出すのは、謎で面白かった。原作とは異なる終わり方なので、村上龍が映画化にあたってやりたかったことなのだろう。コーラからのスタート。
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