荒野の狼

飼育の荒野の狼のレビュー・感想・評価

飼育(1961年製作の映画)
4.5
言ってみれば『地球に落ちてきた男』白人デヴィッド•ボウイが、ジャワの日本軍捕虜収容所に落ちてきた(笑)エピソードを挟んだ『戦メリ』という作品が大島渚にはあるが、これ以前、終戦間近な東京郊外の貧困集落に、米軍機黒人パイロットが墜落(おち) て来た話(原作/大江健三郎)を大島が、その20年以上前に撮っていたのは興味深い。
主人公の「成長物語」とかいう解説が多くみられるけれども、これを「成長」とするのには少し違和感を感じる。少年の真っ当な感情が、やがて大人世界での自己欺瞞へと変貌する様は、成長というより「喪失」と言わざるを得ない気がするのだ。何故なら飼育とは、生き物を飼い育てることを言う。しかしながら大人はそれを売り、食うためだと知った時の子供の絶望感。そしてその喪失から始めなければならない大人の世界の「やるせなさ」。つまり大島の作品には、この「やるせなさ」を様々なシチュエーションで扱ったもの(例えば『戦メリ』、『少年』、『儀式』、『御法度』etc.)がいくつもみられるからである。多分彼には、「育てる」という事には当初から関心がなかったのだろうと思うのだ。人は生まれてから発育はするが「成長」などしない、ただ鈍(にぶ)くなるだけだ、と。
荒野の狼

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