見終わるのが名残惜しい映画
心地よい映画って波が打ち寄せて来るのをじっと眺めている時のように、
何だかずっと見ていたくなる。
でも、油断をしていると、たまに大波が打ち寄せてきて思わず水浸しになってしまう。
これは、そんな映画。
出戻りの「なおこ」と彼女を取り巻くちょいと癖のあるやつらが織り成す日常。
舞台となる高知のとある港町の風景や、夏のじっとりした熱気に、発せられる高知弁の耳当たりのよさが、日本映画が得意とするフィルムっぽい質感に包まれた菅野美穂のナチュラルなフワッと感とうまく馴染んでて、
思いの外、目と耳に心地が良い作品。
そんな心地よさは、
段々と明かされる「なおこ」のある秘密によって、一気に吹き飛ばされてしまう。
その潔くも切ない表現力の振り幅こそが、この映画の最大の魅力だ。
物語がその結末へと徐々に収束していくにつれ、
今まで変人でしかなかった「なおこ」の周辺連中が、
実は至ってまっとうなやつらだったんだと気付く。
その演出の手腕は圧巻。
監督の吉田大八は
「桐島、部活やめるってよ」の人。
道理で、好きなわけ。
見ていて微笑ましい各々のエピソードは穏やかに打ち寄せる波のようで、
ただ、ふと大波が押し寄せて驚く間もなしに濡らされてしまう。
最後に「なおこ」が他者と同じスタンスを獲得出来たかどうかは、
その大波をくらった僕たち観客の感性次第。
当の「なおこ」自身ラストシーンで波間に何を考えていたのか。
最後の笑顔。
僕は安堵と受け取りたい。
ただ、これからも寄せる波のように揺れ動く彼女の心が彼女自身を振り回すのだろうな。
そんな風に、
海を後にする時のような名残惜しい気持ちが残る映画でした。
あぁ、最近海を見てないな。