明石です

レッド・ドラゴン レクター博士の沈黙/刑事グラハム 凍りついた欲望の明石ですのレビュー・感想・評価

3.6
凄惨な殺人現場を自分の目で見ることで、殺人鬼の感情を乗り移らせるという巫女的な能力を具えたFBI捜査官が、獄中の連続殺人鬼の助言を得ながら凶悪殺人に立ち向かう。レクターシリーズの第一章で、『レッドドラゴン(2002)』のオリジナル。チープなジャケットとB級感漂うタイトルのおかげで過小評価されてる感はありますが、意外にも極太の本格派ミステリでした。ただし粗が色々と目についたので今回はそちらを中心に書いていく。

まずマイ·ケルマンの映画は音楽と映像がとにかくクールでよい。男!って感じの映像。『ザ·キープ』にはじまり『HEAT』に結実するこの人の構図からこだわりぬいた画作りはやはり群を抜いていると思うのだけど、ただこの作品に関しては、画面にスタイリッシュさを求めすぎたせいか、犠牲者一家の邸宅が洒落すぎるのが気になった笑。どこの世界のセレブよ、、と心の中で突っ込んでしまい、どうにも他人事に思えてしまう。やっぱり殺されるのは中流家庭でないと、、笑。

そして見過ごせない点としては、やはり会話シーンが間延びしている感があること。全体的にやっつけ仕事というか、心がこもってない感じ。役者の演技も少し平板な感じがする。誰もこの映画が素晴らしいものになり得る可能性を信じていない感じ。リーバ役の女優さんも、盲目の演技がお世辞にも上手とは言えず、本当は見えてるんだろうなというのがスクリーン越しに伝わってきてしまう、、まあ本当は見えてるんだけど笑。これはもうリメイクされる作品の宿命ですが、あの素晴らしすぎる『レッドドラゴン』の出来栄えを知っている身からすると、どうもその辺りが物足りない。

『レッドドラゴン』のメイキング映像に、エドワード·ノートンとアンソニー·ホプキンスが、監獄での面会のシーンでの間の取り方について示し合わせている瞬間が収められているのですが、あの一連のシーンがまさに芸術だと私が思うのは、二人の掛け合いに含まれた言外のニュアンスで、実際に言葉を発している瞬間よりも発していない瞬間により多くの意味が込められている感じ。そしてその面会の直後に、一人で休憩するウィル·グレアム(エドワード·ノートン)の両脇にじんわりと汗が浮かんでいる姿を見せるショットと、役者のなす非言語の演技を魅せる演出に余念がないのです。と、あまり書きすぎると、『レッドドラゴン』の素晴らしさを讃美するレビューになってしまうのでこの話は一旦この辺で。

『刑事グラハム』の話に戻ると、全体的に脚本が弱く、原作のダイジェストになってる感じが否めない。脚色賞("脚本"賞ではない)を受賞した『羊たちの沈黙』や、何の賞も取ってないけど個人的には「羊」よりも多くの賞に値すると思う『レッドドラゴン』と比べられるのは、この作品にとって酷ななことはもちろん分かってはいます。だから、脚本の弱さを映像や音楽でカバーし、それなりの良作に仕上げたマン監督の手際は評価されるべきだと思う。
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