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タクシードライバーのEditingTellUsのレビュー・感想・評価

タクシードライバー(1976年製作の映画)
4.5
Martin Scorsese監督作品
Robert De Niro主演作品

孤独で何が悪い。

Martin Scorseseが世界に存在を認めさせた作品。Martin Scorsese監督が作る作品は、映画というものを体現しているような印象。SFやアクションなどで映画としての非現実感を表現するのとは違い、寝ているときに見る夢のような超現実的な世界を表現している。
今作では孤独な一人の男性が、その孤独を嫌い、自分を嫌い、新たな自分を見つけるために、自分を偽り、自分の世界から足を踏み出す。というストーリーライン。世界中のすべての人が、少なからず感じている感情、孤独。それをタクシードライバーという職業にメタファーを持たせて表現した。

見ていて単純に楽しいところは、人々の行動の理由がわかるということ。ストーリー全体で見ると、身の回りではほとんど起きないようなストーリーなのだが、それぞれのキャラクターの行動や言動には納得いくところが多い。納得というよりも共感という方が正しいかもしれない。自分もそういう行動をとったことがあるし、そのような感情になってしまうこともあるという感覚。だから、流れを見失うことはないし、主人公のTravisに自分を照らし合わせることができる。
一方で、映画の所々で現実とは大きくかけ離れたようなシーンや、カットが出てくる。一番印象的なのは、クライマックスにTravisがとった行動。これは我々が現実にはしえない行動だと思う。しかし、いままで共感できていた感情だけに、ここからが夢に近いシーンで、望んでいたができないこと、望んでいなかったが止められなかったことのような、視聴者の感情を日常から芸術の域へ浮き上がらせるようなシーンである。さらに、編集は現実に近いとは言いがたく、ジャンプカットや、逆にリピートするようなカットもあった。これは、実際に起きている世界をフレーミングで捉え、それを自分の目を通して見た世界へと変えるのが編集なんだと思う。感情が見ているものの解釈を操作し、脳へと届け、記憶へとつながる。それもまた、現実で起きる現象を増幅し、超越したような表現だからみていて吸い込まれるような感覚になった。

スクリプトでストーリーを作り、プロダクションでストーリーを書き換え、編集でストーリーを作り直す。このように三段階で、もっと細かく言えばさらに多くの段階で、ストーリーを更新していくことで、作っている側も驚くような奇跡が映画では生まれる。あとはそれを視聴者にどのように共有するか。その架け橋となる編集者の役割はとてつもなく大きく、価値があるものだと思う。

私の中では、マーティン・スコセッシ監督作品の中でベストの作品。色々な予想を裏切りながらも、一つ一つの要素のパワーが強力なのと、それらの要素が様々な方向から一つに収集されていくのがとても映画的だなと感じました。
何と言っても、ロバート・デ・ニーロの演技がこの作品の中心にいることが一番大きな要素だと思います。そのロバートデニーロの演技に含まれる小さな仕草や、間の取り方に嘘がなくそれらが、監督のディレクティングにバッチリハマっているのが、相乗効果となり、超強力になっています。

普通に我々の身近にいるようなキャラクターではないトラヴィス。例えば、一目惚れの女性に猛アタックをしたり、身体を売っている少女に異様な正義感を見せたり。この辺は、いわゆる世間では異常者の行動です。トラヴィスのクライマックスでの行動はさらに想像を絶するものです。しかし、その全ての行動を嘘っぽく感じないのがすごい。ラクシードライバーをしている時のトラヴィスや女性の好きなレコードを買いに行ったり、重装備の自分に鏡ごしに話しかけるのは、決して以上ではないし、むしろ私たちがパブリックに公表しないような、とてもプライベートで自分の世界に入っている時にするような、ちょっと恥ずかしいような行動。それを描く勇気とそれから大きなテーマ、遠回りしないとたどり着けないような感情を喚起してくれます。

まさにストーリーテラー。常にトラヴィスの感情を追いかけるようなカメラワーク。それに加え、単体では受け入れられないようなショットも、それまでの行動や人間関係からわかるトラヴィスのキャラクターから理解でき、さらには感情移入もできるようなキャラクターアークがあることで、その奇妙なショットがブランド化していく。

マーティンスコセッシは天才であることは間違いないが、めちゃくちゃ我慢強い映画監督だろう。自分の感性に嘘をつかず、カッコつけない。泥臭く、才能のあるフィルメーカーたちが持ち寄った芸術を自分の信じる方法でオーケストレートしていくような監督だと思う。だから役者によってもガラッと色を変えるし、多様なジャンルを描くことができる。決して緩やかな道のりではないだろう。何度も途中で壁にぶつかりながらも、自分の軸から手を離さず、光を探していく忍耐強さがある。
だからこそ、自分の枠にとらわれないような、大きな大きな作品を生むのだろう。
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