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ローザ・ルクセンブルグのodyssのレビュー・感想・評価

ローザ・ルクセンブルグ(1985年製作の映画)
2.5
【やや平板】

ポーランドに生まれて、主としてドイツで革命運動に従事し、第一次大戦終了後まもなく警察によって虐殺されたローザ・ルクセンブルクを描いている映画。このヒロインを演じるのがバルバラ・スコヴァで、先ごろ『ハンナ・アーレント』でヒロインを演じた女優です。監督も同じマルガレーテ・フォン・トロッタ。

さて、『ハンナ・アーレント』でのバルバラ・スコヴァはなかなか良かったのですが、30年近く前に撮影されたこの『ローザ・ルクセンブルク』では感心しませんでした。なぜでしょうか。

『ハンナ・アーレント』では、若い頃のアーレントの恋愛模様や、NYのユダヤ人サークルの様子なども映されてはいるものの、基本的にはアイヒマン裁判とその評価が中心です。つまり材料がはっきりしていて分かりやすく、その中で悩むアーレント像も観客に受けいれられやすかったのです。

それに対して、この『ローザ・ルクセンブルク』はローザの半生を扱っています。途中の事件も多様だし、親戚・友人・恋人との関係も色々ある。それらが分かりやすく描かれているかというと、どうもそうなっていない。予備知識がない人間にはきわめてつかみにくいのです。それは、単に人間関係や彼女の生き方が複雑だからというだけでなく、映画の作り自体があまり親切ではないところからも来ています。

また、この映画が作られたのは1985年、すでにソ連など社会主義圏の実態ははっきりしてきていて、マルクス主義が決してユートピアを生まないことは分かってきていた頃です。ソ連崩壊の5年前ですからね。とはいえ、社会主義の考え方も多様であり、ローザはロシア革命を起こしたレーニンの考え方には批判的でした。

この映画ではそういう理論的な部分も或る程度はとらえられていますが、1985年に作られたものである以上、ローザの思想の何が今日でも評価するに値し、何が間違っていたのかを、架空の設定を入れてでもはっきりさせるべきだったと私は考えます。しかし、監督の手には余ったのか、その辺は突き詰められていない。

何よりこの映画をダメにしているのは、ローザが自己主張をするシーンがかなり多く、それも大声でまくしたてる場面ばっかりであること。彼女のそういうシーンは、感動よりはむしろ平板な印象を強めている。監督にはもっと奥行きのある作りをしてほしかったと思いました。
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