何気ない小悪党たちの交流による幸福な時間、そしてそんなどうしようもない人間の心の底にある意気やプライドをわざとらしくなくさらりと表現してしまう天才山中貞雄によるまるで美酒を嗜んでいるような演出をこころゆくまで堪能できる傑作。
ある人物に言った台詞を直後に別の人間に反復して使ったり、喧嘩するときの会話をリズミカルに表現してユーモアを醸し出したりと監督の喜劇的センスも光り、大して面白いことを言っていないはずなのに何故か可笑しさを感じてしまう。
ある女性を救うため死を覚悟した悪党たちの散りざまを狭い路地を使って表現したラストも印象的。
穢れのないヒロインを演じる当時15歳だった原節子の演技はつたないけれど、いかにも純真無垢な女性としてのオーラを放ち存在感を発揮している。そんないつもは朗らかな彼女が、できの悪い弟にビンタをかます場面はそれを見てしまう関係ない子供や雪の描写も相まって名シーンに。
ちなみに神代辰巳監督の『一条さゆり 濡れた欲情』で伊佐山ひろ子がガマの油を探すシーンがあるが、あれってこの作品へのオマージュだったのね。