尿道流れ者

河内山宗俊の尿道流れ者のレビュー・感想・評価

河内山宗俊(1936年製作の映画)
5.0
なんともまぁ粋な映画だろうか。笑いも憂いも優しさも感情の機微がとても美しい形で映画内に収められている。人情をここまで丁寧に描いた作品を僕は他には知らない。

不良な弟に日々悩む甘酒屋の娘・お浪。その想いを汲み気にかける河内山と静かに想いをよせるヤクザの用心棒・金子。小柄を盗まれて大慌ての老いた侍。それらが時に面白く、時に悲しく絡み合う。不良な弟のせいでついにお浪にも非情な運命が訪れる。そこで立ち上がる河内山と金子。男達の命を懸けた戦い。覚悟を決める弟。

笑いながら観ていたものの、途中でその笑いはとまり、最後には涙をしてしまう。
山中貞雄の現存する3作に共通する駄目だが愛らしい人々の姿は全人類に共通する美徳であり、今も基本的に変わらないままに駄目で愛らしくある人の姿に恥じらいながらも、人に生まれて良かったと思ってしまう。こうやってみんな悩んで戦ってきたし、これからも人はこうあるんだろうな。

説明を省き、肉を削ぎ落としたスピーディーな展開で映画は進む。一つ一つのカットが素晴らしく、白黒であっても画面の持つ豊かな情感がビシビシ伝わってくる。役者もみんな良い顔をしていて、ここぞというときのアップに心をやられる。特にお浪役の原節子の佇まいが最高で、うなだれた姿や表情には時間がとまる思いがした。台詞もとにかく良く、「人のために喜んで死ねるようなら、人間一人前じゃないかな」なんてフル勃起もののかっこいい台詞が最高のタイミングで出てくる。

とにかく粋で色気のある映画。殺陣の躍動感もたまらなかった。感無量。