カネコ

セーラー服と機関銃のカネコのレビュー・感想・評価

セーラー服と機関銃(1981年製作の映画)
4.0
言わずと知れた名作。

子供の頃TVで観て一番記憶に残っていたのは有名な「…かいっ・かん…」ではなく地雷の上に立たされる薬師丸ひろ子だった。
こ地雷は上に乗っただけでは爆発しないっていう知識はこの映画で得た幼少期。

突然の事故で父親を失い天涯孤独の身となってしまった泉。父親が組員4人の弱小ヤクザの跡取りだったため代わりに組長に就任する事に。
そこへ父親の愛人だったという謎の女マユミが現れて。
泉は消えたヘロインを巡ってヤクザの抗争に巻き込まれていく。

独特のロングショットと長回しが特徴的な今作。全然アイドル映画っぽくなくて最高にイカしてる。

ロングショットについて。
隣のビルから窓越しに撮ったり人物の顔が分からないくらい遠い。
太っちょがアップになるシーンが無くて三國蓮太郎が演じていると分からなかった。
刑事黒木と泉が喫茶店で話しているシーンも隣のビルから窓越しに盗撮風に撮ったり。
今作は女子高生がヤクザの組長になるという有り得ないストーリーなのにリアル感があるのはこの独特なロングショットの効果が大きい。

全てが終わった後事務所の屋上で泉と若頭・佐久間が組の解散と今後について話しているシーン。
このシーンもかなり頭上から2人を小さく捉えていて表情は見えない。
この遠さが組員がいなくなった寂しさや空虚さを表していてより切なさを感じた。

長回しに関して。
大きな地蔵の前で泉が同級生と舎弟たちとお酒を飲んで騒いでる。そこから泉がまだ帰りたくないと言って舎弟のヒコとヒコの知り合いの暴走族と合流。泉とヒコがバイク2ケツして暴走するシーン🏍️
ここまでずっとワンショット。
泉の飲んで楽しい気持ちと帰りたくない切ない気持ちが流れるように感じられる台詞と演技が自然で夏の湿度の高い空気感があってすごくリアル。昭和の夏を感じた。

そしてのラストの長回し。
佐久間の遺体にキスした後新宿伊勢丹前でセーラー服に赤いハイヒール姿で佇む泉。
BGMは主題歌のセーラー服と機関銃。

さよなら別れの言葉じゃなくて 再び逢うまでの遠い約束

泉は煙草を吸う仕草を繰り返して歩き出す。
そして道端で遊ぶ子供と一緒に銃の撃ち合いごっこをして地下鉄の通気口の上に立つ。通気口から風が吹いて泉のスカートが広がる。そこに通行人が集まって来る。

そしてモノローグ。
「生まれてはじめての口づけを
中年のオジンにあげてしまいました。
私、愚かな女になりそうです まる」

もう最高。
この作品が泉という少女が大人になる成長の物語だというのをまた最後に印象づけているシーン。
父親の葬儀の後に赤い口紅を手で拭いていた少女。自分は父親にとって娘でありながら妻であり母であったと自負していたのに愛人や目高組の存在を知って自分は父親の一面しか知らなかった事を思い知らされる。
父親だけでなく世の中を知らなかった少女が目高組の騒動から大人に一歩近づく。それがラストの赤いハイヒールなんだと思った👠

「…かいっ・かん…」について。
この作品何度かリメイクされているので他の作品では快感シーンはどんな感じかなぁと思って観たら他の作品では快感と言っていなかった。
なんでか考えてみるとリメイク作と今作で泉のキャラクターが違っていて。
リメイク作では機関銃をぶっ放す前に組員が殺された事、父親がヘロイン騒動に巻き込まれた事をしっかり台詞で話していて泉がここで感情を爆発させている。

対して今作での泉は終始人の死に対してドライというか悲しさをあまり表に出さない。これは結構あると思うんだけど自分も10代で親を亡くしているので経験していて、あまりにも肉親の死とかショックな事が起こると心がシャットダウンするというか状況を冷静に判断しようとする。
というのが一つと、それにプラスして全編で泉の母性を強調して描いていてまるで菩薩のようなキャラを持たせている。
菩薩は感情を露わにしないよね。

傷ついた少女と菩薩性を併せ持ったそんな泉のキャラクターがリアルだったしリメイクに無い部分だと思った。

そして閉じた心が全ての元凶であるヘロインを機関銃で粉々にする。
それは「…かいっ・かん…」ですよ。

このシーン急に画面が明るくなってスローモーションになる。
この時の泉と佐久間、そして政の表情。
全てが奇跡のようなカットで痺れた。


立て続けに薬師丸ひろ子の作品を観てかなりよかったのでしばらくひろ子多めに観ようかな。
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