猫脳髄

THEM ゼム/正体不明 THEMの猫脳髄のレビュー・感想・評価

THEM ゼム/正体不明 THEM(2006年製作の映画)
2.6
フランス新過激主義(New French Extremity)の周辺作家との触れ込みで鑑賞したが、残念ながらこれは肩透かし。

ルーマニア・ブカレスト郊外に暮らすフランス人夫婦が、謎の侵入者に襲撃される恐怖の一夜と言う筋書きだが、チェコで起きた事件をベースにした実話モノだそうだ(実話モノ=実録調ではない)。民主化革命からの混乱を経た東欧各国の「得体の知れなさ」は、特にホラーやサスペンス/スリラー映画の舞台としてのポテンシャルは間違いなくある。

ただ、本作は背景を匂わせるような目くばせがなく、一応のオチはつけたものの、凡庸な作品に終わっている。フィクション部分に過剰な暴力や流血などを盛り込むこともなく、ショック・シーンもかなりマイルドである。

本作で唯一ゾッとしたのは、筋にまったく関係ないブカレスト市街の全景で、チャウシェスクの誇大妄想が具現化した「国民の館」(現・国会議事堂)を中心に展開する、無数の相似的なアパートメント群を捉えたショットである。独裁体制下で画一的な暮らしを強いられた人びとが、現在どう生きているのか。その想像のつかなさ、得体の知れなさに寒気がするのである。我われはまだ、「東欧」を知らない。
猫脳髄

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