このレビューはネタバレを含みます
数々の絶賛レビューを読みようやく鑑賞。
阪東妻三郎氏の外見を知らなかったので、最初は別の役者さんに注目していましたが🙃、すぐに一際熱くて濃い〜人だと気が付きました。
無法松とは、小倉を拠点にする俥夫、富島松五郎のあだ名。
「竹を割ったような男」
「珍しく、きっぷの良い男」
描かれる一連の出来事が、このように評される無法松の男気をよく表現しており、正にタイトル通りの内容でした。
視聴したのは4Kデジタル修復版。
WWII中の作品であり、戦中の検閲によって無法松の恋慕が、戦後はGHQにより日露戦争関連や、軍歌・敗者を美化した唱歌が削除されたことでも有名で、修復版というからには、幾分補填されて観やすくなったのか？と期待しましたが、映像は想像以上のぶった斬りで、話の流れとしては唐突感が続きました。時代背景にも無知なため、様々な点でカルチャーショックを受けました。
そもそもいつの話なのか。
始まりは明治30年(1897年)、無法松25歳頃とのこと(原作者岩下俊作の創作メモでは明治5年生まれという設定)。
それから大正8年(1919年)、48歳で没するまで22年余りを描いています。
以下も鑑賞後調べて知りました。
「戸口調査の規則と心得(明治15年)」では、「旅館宿泊人、….. 車夫…..、裏長屋など貧民の住む場所」は月1回、(無法松のような)「監視中の者、前科者」は月3回、巡査が調査することを定めている。
当時の車夫は「下層民」の職業であり、臭気を放つ「牛馬同等」として蔑まれていた。(「生まれつき運が悪かったので俥なんか引いて」)
オイチニ(お一二)の薬売りとは「オイッチニ♪」と薬の効能を歌いながら歩いた行商。
芝居小屋と車夫は持ちつ持たれつの関係ということで、当時の小倉には、車夫は木戸御免(出入り自由)という暗黙のルールが存在した。(木戸銭＝チケット代、見物料)
入場を拒否された演目は「原田重吉玄武門の血戦」という日清戦争の美談。
怒った無法松が買った席は一等席。
無法松がお前呼ばわりする奥閣下(奥保鞏)とは、実在した元小倉藩士で日露戦争司令官の一人。実際も謙虚な人物だったよう。
喧嘩の晩に見られる沢山の提灯は、WWIにおける青島のドイツ要塞陥落(大正3年)を祝う催しのため。
元同僚の熊吉は土木請負へ転職し羽振りが良くなる。(手慰み＝博打)
明治30年:
巡査の初任給 8~9円。
明治38年頃:
大尉の年収 700~1000円。(ただし将校に軍装品の官給はなかった。)
明治40年頃:
奏任官遺族への扶助料 平均202円/年。死因が演習のため、よし子が受給するのはこの1/4程度。
大工職の平均年収200円。
車夫 20~25円/月、年収200~300円。
大正時代の100円≒現在の30万円？
よし子への想いを描いたシーンは容赦なく削除されていますが、無法松が居酒屋に貼ってあった美人画ポスターを貰って自分の立て場に飾ったのだろうというのは、かろうじて分かります。
報酬欲しさに吉岡家に出入りしてきたのではない。
ただただ敏雄が可愛いから。
守りたいものができたから。
母子の役に立ち喜んでもらえて嬉しいから。
たとえ敏雄から煙たがられようとも。
たとえよし子が最後まで雇い主の気持ちでいたとしても。
たとえ永遠の高嶺の花であったとしても。
時代背景を知った上で再鑑賞して星数が上がりました。観れば観るほど、阪東氏の味のある演技と、恐らくまだ全てを理解できていない内容の奥深さに魅了されます。
後に広島の原爆のせいで亡くなるよし子役の園井恵子さんが上品でお美しいです。
敏雄役が長門裕之氏と知ってびっくり！
大戦の爪痕を深く残した作品としても、その歴史的価値の高さに、自分のような素人でも唸りたくなります。国内外の手による意図的な欠陥が、「敗戦後」の現代の日本人を象徴しているように思いました。
怒る乗客の演技にはサイレント映画の影響を感じます。喧嘩シーンは殴るふりだけ☺️
同監督がリベンジで撮った1958年版をいつか是非観たいです。
「俺達のようなつまらんもんでも、たまには損得忘れて人んために働くこともあるんじゃけ」
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岩下俊作は小倉出身で、父親の初次郎は車夫をしていたことがありました。漁師の父(俊作の祖父)に会いたくて、山中を探し回った思い出話をよく聞いたとのこと。
(高他毅. 俥夫と軍人と教師と交換経済『無法松の一生』において表象された近代と「國民」の未生. 金沢学院短期大学紀要「学葉」Vol.59(2018) p7-28. 他 参考)
(↑特にこれ読んだら、よし子がイヤな女に思えてならないです💦)
