ブタブタ

皆殺しの天使のブタブタのレビュー・感想・評価

皆殺しの天使(1962年製作の映画)
4.5
何年か前に多数の犠牲者を出し大惨事となった韓国の地下鉄火災を撮影した一枚の写真を見たのですが、車内に煙がモウモウと立ち込めているのに乗客はみんな座ったままで電車は止まっているのに誰も逃げようとしない。
結果多数の犠牲者が出た。
何故?と全く理解出来なかったのですが、コレは集団心理の1種で人が沢山居ると「みんな居るし大丈夫」「1人だけ騒ぐと恥ずかしい」等の異常事態に対し出来るだけ平静に対処しようとする思考が過剰に働いて結果正常な判断が出来なくなってしまうらしいとの事です。

でもこの『皆殺しの天使』にそんな分析や考察をしても全く意味無いのでした(笑)

シュルレアリスムであり不条理劇。
上流階級の人々が極限状態に置かれ(しかも意味不明な)徐々に狂っていく様を実験動物を見るかの如くカメラは何処までも淡々と冷徹に写す。

映画化もされたJGバラードの『ハイ・ライズ』では同じく上流階級の人々の住む高層マンションの内部で徐々に精神の均衡が崩れ現代人が本能の赴くまま原始人的に退行していく様を描いていて、同じくJGバラードの『コンクリート・アイランド』では高速道路が交錯するエアポケットの様な場所にクルマの事故で落ちてしまった男が何故かそこからどうやっても出られなくなると言う話で、ジャンルとしては人間の内宇宙(インナースペース)を描いたニューウェーブSFなのですが「部屋から出られない」と言うこの映画(世界)のルールによって異常な空間が出現する。

物理的な理由ではなく精神的な理由によって現実までもが狂っていく
『皆殺しの天使』はシュルレアリスムでありニューウェーブSFにも見えました。

もしこれが誰かの意思や何かの存在による仕業だったら「ブルジョワジー大量(非)密室殺人」になって『ドグラ・マグラ』『虚無への供物』等のアンチミステリーの様相を示して来ます。
「胎児の夢」やら「コレを読んでる読者」等の劇中の人物達には決して辿り着けない形而上的な存在の真犯人。
アンチミステリーの特徴として早い段階で真犯人が分かってしまうのですが(と言うか最初からハッキリ言ってしまう)
『皆殺しの天使』もそんな形而上的な真犯人が居てそれこそが“皆殺しの天使”なのでは、とこじつけてみました。

12月にイメージフォーラムで上映するので見られる方は是非劇場で。

オシマイ(∩´∀`∩)
ブタブタ

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