ナチスドイツ映画最大のスター、歌姫ツァラー・レアンダーの第五弾。監督は「故郷」（1939）でもツァラーと組んだドイツ映画界の長老 カール・フレーリヒ。第二次世界大戦の開戦直後の公開。

ロシアを舞台に大作曲家チャイコフスキーと彼を陰で支えた恋人とのロマンスを描くフィクション（チャイコフスキーは同性愛者として有名）の音楽映画。ストーリーはシンプルなメロドラマ。ゴージャスなホールで繰り広げられる華やかな舞踏会、ドイツのバレリーナスター・マリカ・レックの旋回パフォーマンス、ベルリン国立歌劇管弦楽団によるチャイコフスキーの名曲の数々、と絢爛豪華で贅沢な映像が楽しめる。ツァラーが歌うのはシャンソン「愛を求めて泣かないで」とチャイコフスキー作曲の「ロマンス」。ゴージャスな衣装で次々と登場し、彼女の出演映画の中でも屈指の美しさで撮られている。女性客向けに作られたと思われる映画だが、戦争突入の中でどのように観せようとし観られたのか興味深い。

【あらすじ】
1865年、帝政ロシア・モスクワ。大実業家ムラーキンの妻であるカタリーナ（ツァラー）は忘れ得ぬ恋人チャイコフスキーとの再会のため、共通の友人のフンジンゲル教授の手引きで仮装舞踏会に参加する。貧苦に喘ぎ楽譜も売れぬチャイコフスキーはカタリーナの前から身を引き、現在は彼に思いを寄せる若いスターバレリーナ、ナスターシャと付き合っていた。久しぶりの逢瀬にカタリーナとチャイコフスキーは盛り上がる。二人は会場を抜出してチャイコフスキーの家で愛のひと時を過ごす。その帰途カタリーナは教授に会い、チャイコフスキーには絶対秘密で、彼の楽譜出版費を出したいと申し出た。あくる日、チャイコフスキーの元に教授とともに訪れた楽譜商グリコフは楽譜の出版と演奏会の契約を提案、喜んだチャイコフスキーは金の出所もしらずにカタリーナにムラーキンとの離婚を勧めるのだった。 演奏会の夜、グリコフからカタリーナのことで嫌味をいわれたチャイコフスキーは憤然として決斗を申込むが、立ち去ったグリコフはムラーキンを訪れ二人の怪しい仲を告げ口する。ムラーキンはチャイコフスキーの家を訪ねて問い詰めるが チャイコフスキーは居合わせたナスターシャを婚約者として紹介し危機を脱れた。しかし、そのためナスターシャと結婚式をあげねばならぬ破目になる。式が終った夜、彼は家を飛出してフンジンゲル教授を訪れた。教授に相談すると「天才の恋人は芸術である」と諭される。彼は一切をふりすてて音楽に精進した。世界各国を廻るうち彼は次第に成功を収め、数年後、第六交響曲「悲愴」をたずさえてモスクワに帰った。カタリーナは既に離婚していて二人の間にもはや障害は無い。晴れの演奏会の日、 チャイコフスキーは「悲愴」の演奏半ばで流行中のコレラに倒れ、 カタリーナに看とられながら永遠の眠りについた。。

■ベルリン国立歌劇管弦楽団による演奏曲目
第四交響楽（第一楽章）
「眠れる森の美女」（ワルツ）
「くるみ割り人形」（ロシア舞曲）
イタリア綺想曲「船唄」（「四季」より）
ピアノ協奏曲 第六交響曲「悲愴」