柏エシディシ

過去のない男の柏エシディシのレビュー・感想・評価

過去のない男(2002年製作の映画)
3.0
「真夜中の虹」と骨子はほとんどおんなじプロット。ただ初期の頃のカウリスマキの作品にあったひりつく様な呵責無さは明らかに後退して、新世紀以降のカウリスマキ映画は、確かな人々への信頼と慈愛が率直に表現される様になった。
「浮き雲」を前後とした明らかな変化は盟友マッティ・ペロンパーの死とは無関係ではなく。
劇中、壁の彼のポートレートがさりげなく映り込む。
「真夜中の虹」では主人公たちの孤立は深まり、やがて彼らは街を出ていかなくてはならなかったが、本作では社会の底辺で生きる人たちの確かな連帯と融和が衒いなく描かれる。
犬、ロックンロール、酌み交わすお酒。
一目惚れ。
ぶっきらぼうな様で、その実、情に厚い男たち。
クレイジーケンバンドの音楽が滑り込み、カウリスマキの映画は日本でいう所の、長屋もの、落語の趣きを思い起こされて、シンプルだが汲みきれない魅力は似ているな、などと考えた。
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