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ピアノ・レッスンのmasahitotenmaのレビュー・感想・評価

ピアノ・レッスン(1993年製作の映画)
4.0
「エンジェル・アット・マイ・テーブル」に続くニュージーランド出身の女流監督ジェーン・カンピオンの長編第3作。
言葉を失い、ピアノを心の拠りどころとしてきた女性が、未開の地で出会った先住民みたいな男の一途な情熱に惹かれ、女としての性に目覚めていく、官能的な愛のドラマ。
原題:The Piano (1993)

1852年、口の聞けないエイダ(ホリー・ハンター)は、娘フローラ(アンナ・パキン)と自分の分身ともいうべきピアノとともに、スコットランドからニュージーランドの入植者のスチュワート(サム・ニール)のもとに嫁ぐ。
しかし、迎えにきたスチュアートは、ピアノを浜辺に置き去りにし、友人で原住民のマオリ族に同化しているベインズ(ハーヴェイ・カイテル)の提案に応じて、彼の土地とピアノを交換してしまう。
ベインズはエイダに、ピアノの"レッスン"をしてくれれば、返すと言う。
その秘密の"レッスン"の内容は次第にエスカレート。初めは、字も読めないベインズを嫌ったエイダだったが…。

エイダが、抜き取った鍵盤に書いた、‘Dear George, you have my heart, Ada McGrath(ベインズ、私の心はあなたのものよ、エイダ・マクグラス)’と書いたメッセージを、"天使の姿をした"娘ローラに託したことから、物語は衝撃的な急展開をみせるが、それは見てのお楽しみ。

「 6才で話すことをやめた。なぜかは私自身にも分からない。

私自身は自分に声がないと思っていない。なぜなら、ピアノがあるから」

「これは、棺桶だ。海に葬ろう」

「何という死、何という運命、何という驚き、意志が生を選んだのか、その力は私と多くの人を驚かせた。…
夜は海底の墓場のピアノを想い、その上をただよう自分の姿を見る。
海底はあまりにも静かで私は眠りに誘われる。不思議な子守歌、そう、私だけの子守歌だ
声の存在しない世界を満たす沈黙
音が存在しえない世界の沈黙が海底の墓場の深い深いところにある」

口が聞けず、ピアノで感情を表現するという難しい役に挑んだホリー・ハンターが熱演。夫の求めを固くなに拒みながら、現地人のような男の純粋な愛に強烈に惹かれていく姿を肌感覚で演じている。
オーディションで選ばれこの作品でデビューしたアンナ・パキンも、エイダの言葉を伝える重要な娘役を好演。
地の果てのような荒涼とした浜辺に運ばれ打ち捨てられるピアノ。それを写し出すスチュアート・ドライバーの撮影のきれいなこと。
カメラの美しさは、様々な場面で効果を発揮し、イギリスの作曲家、マイケル・ナイマンによる詩情豊かな音楽(演奏はミュンヘン・フィルハーモニー)が重なりあい、感情を盛り上げる。
特にメインテーマとも言うべきピアノソロ「楽しみを希う心」は印象的で、ホリー・ハンターが自身で演奏を行っている。
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