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小さき麦の花のmasahitotenmaのレビュー・感想・評価

小さき麦の花(2022年製作の映画)
3.3
公開して2ヶ月近くして動画投稿SNS「Douyin」(中国版TikTok)で都会暮らしの若い世代を中心に話題になり、「奇跡の映画」と呼ばれ、中国で異例の大ヒット。
監督はリー・ルイジュン。
原題:隠入塵煙(2022、134分)

2011年、中国西北地方の農村。
年のいった貧しい農民ヨウティエ(ウー・レンリン)と障がいのあるクイイン(ハイ・チン)。
互いの家族は共に厄介者だったふたりを結婚させる。
2人は出稼ぎに出た村人の空き家に住んでいたが、農村改革により空き家を解体した家主に補助金が出ることになり、家を追い出される。
そこで、自力で日干しレンガを積み上げて家を作るが、今度は農民の生活向上のためだとして町の住宅を安く与える政策が決まる…。

~登場人物~
①主人公
・ヨウティエ/有鉄(ウー・レンリン←監督の叔父で、実際の農民):
マー/馬家の四男。三男宅に同居。
・クイイン/貴英(ハイ・チン):障がいがあり、子どもを生めない。手足が不自由で、常に失禁している。
②脇役
・マー家の三男、ヨウトン/有銅(チャオ・トン)
・ヨウトンの妻(ワン・ツァイラン←ウー・レンリンの妻)
・ヨウトンの息子:ヨウティエは彼の結婚道具を馬車で運ぶ役を押し付けられる。
・入院している村の豪農チャン・ヨンフー:彼のため同じRhマイナスの血液型であるヨウティエが何度も血を取られる。
・その息子(ヤン・クアンルイ)
・ロバ

「捨てておこう。他の苗の肥料になる。どんな人にも運命がある。麦も同じだ。麦なりの運命がある。夏が来れば鎌で刈られる」

「振り落とされる鎌に麦は何を言える。実を啄むスズメに麦は何を言える。精麦機に麦は何を言える。麦として土に撒かれ麦は何を言える」

「足があるから人は動き回れる。麦や野菜よりじつとましだ。作物はどこにも行けない。雨風や日照りに耐え、じっと土の中で生きるしかないんだ。でも、足があっても遠くには行けないな。この土地に縛りつけられてる。どこへも行けない。農民は土を離れて生きられない」

国家政策のもとで、地方の貧しい農民層は住んでいた家や農地から切り離され町の低賃金労働者として供給され続ける。
2人が支え合い慎ましくじっと耐えて(つまり社会政策=国家に対し一言の不満も口にせず)生きる姿が感動を呼んだようだが、監督は中国の現体制に不満はあっても我慢しているのか、それとも不満があっても批判できないのか、それとも体制そのものには賛成しているのか?
いずれにせよ、現中国において映画を製作することと現体制を支持する映画を作るということは同じなのだと、この作品を見て改めて感じる。
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