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海を飛ぶ夢のnaokkoのレビュー・感想・評価

海を飛ぶ夢(2004年製作の映画)
5.0
わたしは今、終末期に関わる仕事をしている。
この仕事に就く前だったら、この映画を見て「尊厳死は認められるべき」「家族に支えられて死を選べて感動した」と迷いなく言えたと思う。感動して、涙して、何か自分の中の澱のようなものを洗い流したようなさっぱりした気持ちになったかもしれない。

死が避けられない時にどう向き合うか、本人も家族も何度も何度も何度も揺れ動く。支えあったり衝突したり和解したり離れてしまったり、いろいろな家族の形があるのだと教わってきた。
 
ラモンはどうか?
差し迫って死があるわけではない。家族も愛情もって介護してくれているし、会いにきてくれる友達もいる。恵まれていると言う人もいるかもしれない、生きる意味があると言う人もいるだろう。観終わったわたしも、これを尊厳死というのか自殺というのか、気持ちに整理がつかないでいる。

作中でもラモン、家族、支援者、外野、フリア、ロサ、それぞれの想いとエゴとが入り乱れるけど、お涙頂戴ではなく静かに真摯に描かれていたと思う。どの人の気持ちも分かり、感情を揺さぶられる映画だった。

印象に残るシーンも沢山あるのだけど、書ききれない。みんながイラつくロサも最初は甘えたで現実逃避にラモンに入れ込んでるなぁと思ったけど、本当の愛なら死なせてくれると言われて考え直したりする一面もあり、とても人間くさくていい。最後にキスを思いとどまるあたり、恋人としての愛ではないと自覚したのかラモンとの交流を通して少し自立したのかなぁとも思う。

 
生き方を選ぶ自由があるとの考え方の中に、生を終わらせる自由を含むのかどうか。彼の訴えがきっかけになり、カトリックという宗教をベースにもつ国民性の中でも安楽死を容認することを決めたスペイン国内ではどれほどの議論があったか。
正直にいうと議論があったことをわたしは羨ましいとさえ思う。日本では未だに死について話すことさえも憚られるような空気がある。ネットでは延命治療について批判的な論調も目にするが、このままでは、医療経済の観点からろくに議論もされないままに安楽死を押し切られるのでは、という危機感を持っている。ラモンが語ったように、あくまでもその人の自由や尊厳を守るために、誰からも強制されず批判されない権利として議論が深まってほしいと願う。
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