ともぞう

霧の旗のともぞうのレビュー・感想・評価

霧の旗(1965年製作の映画)
3.9
山田洋次監督と倍賞千恵子と言えば寅さん。そのイメージとは180度反対の作品。勧善懲悪とは程遠い、一筋縄では語れない物語。倍賞千恵子の兄も冤罪は可哀想だが、お金も払えず、忙しいし、九州の良い弁護士を薦めて断る滝沢修の言い分は当然。その後の獄死も不幸だが、悪いのは弁護士ではない。なのに、弁護士に逆恨みし、再起不能まで追い詰める(愛人も冤罪に陥れる)真犯人以外は誰も得をしない後味の悪い結末。でも、そのサイコパス女を倍賞千恵子が淡々とやり切る。彼女の演技力の高さがこの理不尽なストーリーを上手く昇華させたと思う。凄い女優だと再認識。

〈あらすじ〉
柳田桐子(倍賞千恵子)は高名な大塚欽三(滝沢修)の法律事務所を今日も訪れた。だが返事は冷たい拒絶の言葉であった。熊本の老婆殺しにまきこまれた兄のために、上京して足を運んだ桐子は、貧乏人のみじめさを思い知らされた。「兄は死刑になるかも知れない!」と激しく言った桐子の言葉を、何故か忘れられない大塚は、愛人の河野径子(新珠三千代)との逢瀬にもこの事件が頭をかすめた。熊本の担当弁護士から書類をとり寄せた大塚は、被害者の致命傷が後頭部及び前額部左側の裂傷とあるのは、犯人がギッチョではなかったかという疑問にとらわれた。この疑問は大塚の頭の中で雲のように広がった。数日後、桐子の名前で「兄が死刑になった」と知らされた。大塚は弁護をひき受けなかった自分を悔んだ。兄の死後、上京した桐子はバー“海草”のホステスとなった。そして常連の記者から「大塚が事件の核心を握ったらしい」と聞かされて復讐の念にかられた。その頃、桐子は同僚のホステスの信子(市原悦子)から恋人の杉田健一(川津祐介)の監視を頼まれた。ある夜、尾行中の桐子は健一が本郷のしもた屋で何者かに殺害される現場に居合わせた。そして、桐子は偶然居合わせた大塚の愛人の径子に冷たい視線を送った。桐子は健一の死体の側にあった径子の手袋を残すと、健一の親友であった山上のライターをバッグにしまった。径子は殺人犯として逮捕され、大塚の社会的地位も危ぶまれた。大塚は証拠品のライター提出と、正しい証言を求めて桐子の勤め先に足を運んだ。そんなある夜、桐子はライターを返すと大塚をアパートに誘い、ウイスキーを勧めて強引に大塚に関係を迫った。翌日、桐子は担当検事に「大塚から偽証を迫られ、暴行された」と処女膜裂傷の診断書を添えて訴えた。今や大塚は完敗した。九州に向う連絡船上、桐子の胸に虚しさが突き上がって来た。
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