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あるじのSのレビュー・感想・評価

あるじ(1925年製作の映画)
4.1
〝性格描写の習作〟として評価される作品。ドライヤーとスヴェン・リンドムの合作による台本で、原作はスヴェン・リンドムの「暴君の失落」。この映画はドライヤーの日本で最初に公開された作品である。本作品のヒットにより、『裁かるゝジャンヌ』を製作するきっかけをも与えた。

「あるじ」というタイトルと、酷薄そうな夫の顔の写真から、暗い話かと思いきや、実際にはコメディ色を織り込んだ面白い作品である。ヨーロッパで大ヒットしたホームドラマで、観客の心を和ませる。当時としては先進的な作品であり、妻を敬うというメッセージを強く打ち出した点にも注目する。
日本の昭和の家庭のような亭主関白の考え方は、現代のジェンダーフリーにおけるパワハラといった視点でもあり、その点に関しては意見が分かれるかもしれない。この映画の主役とも言える存在は、お手伝いのマッソだろう。暴君の夫から妻を遠ざけて、夫を〝教育〟するのである。

この1925年のサイレント映画では、ある家庭の生活や心の機微が緻密に描かれていく。サイレント映画ならではの豊かな表情や、効果的な字幕の使用が、完成度の高さを際立たせている。幅広い層の観客が楽しめる作品だと思う。

2024/03/21 ナゴヤキネマ・ノイ
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