かささた

スタートレック ファーストコンタクトのかささたのレビュー・感想・評価

3.3
新スタートレックの映画としては2作目です。監督はジョナサン・フレイクスで劇中ウィリアム・ライカーを演じてもいます。
スタートレックは旧シリーズでもミスター・スポック役のレナード・ニモイやカーク船長役のウィリアム・シャトナーが監督を担っていますが、こうした長く続いたテレビ・シリーズの劇場版をキャストが演出する利点は、自分自身の役もふくめてそのシリーズの世界観をよく理解している事でしょう。このキャラクターはこんなことは言わない、とか、この艦の性能でこんなことは出来ない、だとか、設定上の些細な不自然さを指摘することも出来ますし、何よりもそのシリーズに流れる独特の雰囲気を把握するのがうまいような気がします。その分一本の独立した映画として演出している意識は低いのかもしれません。この映画も映画と言うよりは長尺版のテレビシリーズの一篇という感じではあります。テレビシリーズで最強の敵として出てきたボーグをめぐるストーリーと地球人が初めて異星人(ここではバルカン人)と接触するファースト・コンタクトのストーリーとが半ば強引に接合されています。ボーグサイドをピカード、ウォーフ、データが担当し、ファースト・コンタクトサイドをライカー、ジョーディ、ディアナが担当していて、この二つのストーリーは交錯しているようであんまり交錯していませんね。ボーグというのは半有機体半機械の集合意識体のような存在で他者をどんどん融合して同化していく、というちょっと厄介な敵です。主人公の一人であるジャン・リュック・ピカードはこのボーグに融合されていた過去があり、Qを除けばシリーズ全体の根幹に関わる大きな敵と言えそうです。このボーグを映画で取り扱うということは制作側にとってもシリーズを観てきたファンにとっても避けがたい必然というか正念場というかとにかく待望の映画化エピソードだったはずです。しかしもうひとつのファースト・コンタクトのストーリーはどうでしょうか。・・・この異星人との最初の接触が地球の歴史にとって一大事である、という盛り上げ方をされているのですが、例えば月面着陸のような現実での歴史的な一大事ならともかくスタートレック史上で一大事なだけなんですよ。しかもシリーズの中でもそんな話は聞いたことも無かった一大事です。とってつけた感があります。なんでしょうねー本当はボーグだけで一本映画を作りたかったのに、ボーグという存在があまりにもシリーズの内輪向けだと思ったのか、スタートレックを初めて観る層へ向けてとってつけたのがファースト・コンタクトサイドのストーリーという印象です。
この映画でおもしろかったのは愛着のあるキャラクターが変化、成長していくところです。人気キャラクターであるアンドロイドのデータ少佐がより人間に近づくにつれ戸惑い、やがて自らの中の人間性を受け入れていく様は(今後も続いていく定番ではあるのですが)いつも楽しいです。そして今回はかつてボーグと融合しロキュータスとしてエンタープライズ号の敵となっていたピカード艦長の成長も見られます。ピカードはボーグをただの敵ではなく自分の内部の問題、乗り越えるべき壁として見ているんですね。そのためにボーグに融合されたエンタープライズを自爆させて撤退するという理性的な選択をピカードは受け入れることが出来ない。自分の弱さから逃げたくないのでしょう。部下の反対を強引にねじ伏せウォーフ中佐には「臆病者!」という暴言を吐いてしまいます。(クリンゴン人のウォーフ中佐にとって臆病者という発言は最大級の侮辱に聞こえたはずです)ある事があってピカードは自分の考えを改めることになるのですが、自分の執着を手放す、というのはなかなかに大切なテーマのように思いました。
こうしたテーマが効果的に語れるのもそもそもが「頑固で強情」というピカードの性格の素地があったからですが、このピカードの性格も面白いですよねえ。旧シリーズの「鷹揚で楽天的」というカーク船長とは対照的ですが、あんまり主人公向きじゃないというか好感を持たれにくい性格設定のように思うのですが、とてつもなく人間味があって好きになってしまうんです。新シリーズの創造者達の英断の結果だと思います。
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